痰を出しやすくする方法


  • 痰を出しやすくする方法 項目一覧
    痰を出しやすくする要因
    タッピング(カッピング)
    体位交換、体位ドレナージ
    バイブレーション
    ネブライザー(吸入器)の使用
    水分補給、うがい、加湿
    スクイージング、ハフィング
    医療機器の使用による方法
    効果的な痰などの排出方法


  • 痰を出しやすくする要因
    気道内(鼻、口、気管、気管支
    細気管支、肺胞など)にある痰
    等を体外へ出しやすくする為の
    要因として、
    ・痰を柔らかくする
    ・気道内を滑らかにする
    ・気管や気管支、肺胞等の壁に
     付着している痰を取り除く
    ・体外へ誘導する
    などがあります。

    上記の具体的な方法に下記の
    項目があります。
    ・タッピング(カッピング)
    ・体位交換、体位ドレナージ
    ・バイブレーション
    ・ネブライザー(吸入器)の使用
    ・水分補給、うがい、加湿
    ・スクイージング、ハフィング
    ・医療機器の使用による方法



  • タッピング(カッピング)
    ◆タッピング(カッピング)の目的
    ①痰などを剥がれやすくする
    気管、気管支、肺胞などに付着
    している痰や異物を体外に出や
    すくする為。
    叩くことにより振動を与え、
    気管や気管支などの壁に付着し
    ている痰等を剥がれやすくする
    効果が期待できます。

    ②肺炎(沈下性肺炎など)の予防
    痰等の排出が困難で、寝たきり
    の状態が長期間続くと分泌液等
    が肺に貯留しやすくなります。
    細菌などが進入した場合は、
    そこで増殖し肺炎を併発するリスクが高まります。
    タッピングすることで肺の奥に
    溜まった分泌物などを剥がれや
    すくし、移動を助けます。 

    *タッピングだけではなく、
    バイブレーション、体位変換、
    体位ドレナージも沈下性肺炎の
    予防につながります。


    ◆タッピングの方法
    ①掌をお椀の様な形にします
    (水を手ですくう時の形)
    掌に空間をつくることで叩く時
    負担が軽くなり、効果も高くなります。
    実際自分の胸を叩いてみるとわかると思います。
    掌をのばしたまま叩く時と、
    空間をつくって叩くときとでは
    痛みも違いますし、効果も違います。

    ②リズミカルに叩く
    叩く時は力をあまり入れず軽く
    「ポン、ポン、ポン」と細かく
    リズミカルに叩きます。


    ◆叩く部位
    ●前胸部、側胸部、背部
    叩く部位は、背部と胸になります。
    (前胸部、側胸部、背部)

    本人の意識がしっかりしていれ
    ば、痰が絡んでいる部位がわか
    りますので、右か左か上か下か
    などわかると思いますので確認
    しながら実施すると効果が高くなります。

    乳幼児や意識がしっかりして
    いない方に対しては、聴診器が
    あれば確認できますが、ない場合
    は、背部や胸全体をタッピングします。


    ◆効果的な方法
    ●聴診器の使用
    聴診器で聴診すると喘鳴(ゼイ
    ゼイやヒューヒュー等の音)が
    確認できますので聞こえる部位
    を重点的に叩くと効果的です。

    ●手や耳で確認
    聴診器がない場合は、手や耳を
    当てるだけでもわかる場合もあります。
    胸全体に両手をあてると振動が
    伝わってくる時もあります。

    ●痰の存在している部位を上にする
    痰がからんでいる部位を上にし
    てタッピングすると重力の関係
    で下のほうに痰などが移動しやすくなります。

    ●全体的にタッピングする
    部位に関係なく一度は全体的に
    背中や胸をタッピングしてから
    痰が絡んでいる部位をタッピン
    グしていくといいと思います。

    痰が気道の上方に移動し難い
    場合は可能であれば上体を低く
    前屈みにしてタッピングすると
    さらに痰が出やすくなります。


    ◆タッピングするタイミングは?
    ・痰が絡んでいるとき
    ・痰の吸引をする時
    ・ネブライザーなど吸入をした後
    ・体位交換する時 など


    ◆注意すること
    乳幼児の場合は嫌がらない様に
    より軽くタッピングします。 

    本人の状態を観察しながら実施してください。
    叩く強さも個人によって違いま
    すので、本人に程度を確認しな
    がら、苦痛をなるべく与えない様に実施して下さい。

    ◆メモ◇~~~~~
    タッピングとカッピングの意味は?
    タッピングの意味は「軽く叩くこと」
    カッピングは「手などを杯状にすること」 
    いろいろネットで調べてみまし
    たが、どちらも同じような方法で
    実施されている場合も多いようです。
    単にタッピングと言えば、掌を
    のばした状態で軽く叩くという
    意味にもなると思います。
    ◇◆◇◆~~~~~



  • 体位交換、体位ドレナージ
    ◆体位交換、体位ドレナージの目的
    ●貯留した痰などを体外へ誘導する
    体位を変えることにより物理的
    に痰を出しやすくします。
    痰などは重力の関係で下の方に
    溜まりやすくなる為、体位を変
    えて上にするだけでも、移動し
    やすくなります。
    下方に存在した痰等を上にして
    さらに気道の上方に移動し易い
    ように、頭部を肺より低くした
    姿勢を維持することで体外への
    排出が容易になります。

    ●疾患の治療
    体位ドレナージは気管支拡張症
    や肺化膿症など痰の多い疾患の
    治療としても行われます。


    ◆体位交換の方法
    自力で体位を変えることが出来
    ない方には、1~2時間おきに
    体位変換の介助をします。


    仰臥位(仰向けに寝た状態)
    → 右側臥位(横向き)
    → 仰臥位→ 左側臥位
    → 仰臥位

    ※体位を変えるだけでも痰が
    出やすくなります。


    ◆体位ドレナージの方法
    痰は低い方に溜まりますので
    出やすくする為には痰のある
    部位を高くして頭部を肺よりも低くします。

    *痰の溜まっている部位に
    より、体位は異なります。

    ●痰が肺の前方にある場合
    仰向けの状態で両膝を立てます
    腰部、臀部の下にクッション等
    を入れ頭部よりも高くします。
    ギャッジベッドを使用している
    場合は、下半身側を高くします
    顔を横に向けて体外へ排出します。

    ●痰が肺の片方にある場合
    痰のある方を上にして腰部、
    臀部にクッションなどを入れ
    頭部を肺よりも低くします。
    ギャッジベッドを使用している
    場合は下半身側を高くします。

    *側臥位(横に向いている
    姿勢)の時は、枕を抱くと楽になります。

    ●痰が肺の後方(背中の方)にある場合
    腹臥位(うつ伏せの姿勢)に
    して胸部、腹部、腰部にクッシ
    ョンなどを入れて頭部よりも肺
    を高くします。又は、うつ伏せ
    に近い状態で、横向きにします

    ●注意しなければならない事
    病状によっては体位が制限され
    る場合もありますので、担当医
    に必ず許可を得てから実施して下さい。



  • バイブレーション
    ◆ バイブレーションの目的
    ●細かい振動を与えることに
    より、気管及び気管支などの壁
    に付着している痰を剥がれやすくする。

    ●咳を誘発して痰を出しやすくする。

    ●粘稠痰(粘りけのある密度の
    高い痰)の排出を助ける。

    ※痰を出やすくするだけでなく
    リラックス効果も期待できます。


    ◆バイブレーションの方法
    マッサージ器を使用して振動を
    与えます。

    時間や強さはその時の状態にも
    よりますが、最初は弱で5分間
    ほど試してみて下さい。

    本人の状態を観察しながら実施して下さい。
    苦痛や不快感を感じるようであれば中止します



  • ネブライザー(吸入器)の使用
    ◆ネブライザー(吸入器)の目的
    気道(口腔、鼻腔、咽頭、喉頭
    気管、気管支、気管支枝、肺胞
    など)に湿気を与える。

    主に気管、気管支、気管支枝、
    肺胞に薬液を与える。

    上記の結果期待される効果
    ・痰を柔らかくする
    ・気道を滑らかにする
    ・気道の粘膜を保護する
    ・気道の壁に付着している痰を
    剥がれやすくする
    ・痰が出やすくなる
    ・呼吸を楽にする
    ・術後の肺合併症の予防
    ・病気の治療と予防

    *喘息の患者さんによく利用されています。


    ◆ネブライザーの原理
    液体を細かい粒子にして上気道
    より吸入させます。

    細かい粒子にする方法として、
    ジェット式と超音波式があります。

    コンプレッサーで圧縮した空気
    で液体を霧状にするものをジェット式。

    超音波振動子によって細かい
    粒子にするものを超音波式。


    ◆ネブライザーの種類
    ●ジェット式吸入器
    ジェット式の吸入器は、原理上
    小型にはし難いため、持ち運びには不便。
    *最近では小型のものも出てきています。

    音が他の吸引器と比べると大き
    いですが安価で使用できる薬液
    の種類が多い為、医療機関など
    では多く使用されています。

    ●超音波式吸入器
    小型にも出来る為、携帯用のものが多い。
    欠点として粒子が細かすぎる。

    ●メッシュ式の吸入器
    従来の超音波式吸入器の欠点を改善した吸入器。


    ◆ネブライザーの方法
    *ここではジェット式ネブライ
    ザーについてまとめてみました。

    メーカーや種類によって違いは
    ありますが、大まかな手順は以下の通りです。

    ①吸入器に指示された薬液などを注入する
    医療機関では、ディスポ(ディ
    スポーザブル、使い捨て)の
    注射器で正確に量を測ります。
    薬液ごとに違う注射器を使用します。

    ②ネブライザーの本体に接続

    ③噴霧の量、風量、時間などを設定
    噴霧の量が多いとむせたり咳を
    誘発させたりする為注意します。
    実際噴霧させて薬液の流出状態を確認します。

    ④マスクを装着
    マウスピースの場合はくわえてもらいます。

    ⑤吸入
    口は軽く開けて、口から呼吸をします。

    ⑥終了
    薬液が無くなるか、噴霧の状態が消えたら終了。
    又は時間がきたら終了。

    ⑦うがい
    吸入が終わったら、うがいをします。
    口腔内に残っている薬液を取り除くためです。


    ◆注 意 点
    吸入する時は、腹式呼吸でゆっ
    くりと深く呼吸をします。

    吸入後は、口の中に残っている
    薬液を取り除く為にうがいをします。
    *口腔内に薬剤が残っている
    と、体内に吸収される為。
    又、口の中が不快な感じがする為です。

    *痰を出やすくする為に使用
    される薬液は、生理食塩水や
    ビソルボン、アレベールなどがあります。

    *喘息に使用される薬液には
    上記の他にもステロイド剤や
    抗コリン剤、β刺激剤、抗アレ
    ルギー剤などがあります。

    ※喘息の治療として使用する
    場合は、上記以外にも注意し
    なければならないことがあります。


    ◆喘息の治療として吸入する場合
    喘息発作などの治療として吸入
    する場合は、充分な観察が必要です。
    特に呼吸状態や顔色の変化には
    気をつけます。
    嘔気、嘔吐の有無、脈拍の観察も必要です。

    吸入開始後、呼吸が苦しくなる
    場合もあるため、吸入中は必ず
    傍で見守る必要があります。
    特に乳幼児の場合は、吸入中は
    もちろんですが吸入後も、しば
    らく観察する必要があります。


    ◆観察ポイント
    ●呼吸器症状
    呼吸の回数、深さ、咳の回数や
    種類、痰の性状など

    ●循環器症状
    冷汗、口唇色の変化(チアノ
    ーゼの有無)、気分不快、
    脈拍の状態 など

    ●消化器症状
    嘔気、嘔吐 など

    ●精神状態
    不安感の有無 など


    ◆吸入薬(液)について
    ここでは主に使用されている
    痰の排出を助ける薬液をまとめてみました。

    ●アレベール
    吸入液として広く使用されています。
    他の薬の希釈や溶解剤です。
    吸入効果を高める働きがあります。

    ●ビソルボン
    気道からの分泌液を増加させます。
    痰をうすめて粘りをとります。
    気道粘膜の線毛運動をよくして、痰の排出を促します。
    古くから使用されている薬です。

    ●生理食塩水
    約0.9%の食塩水です。
    他の薬の溶解や希釈として利用されます。

    喘息等で使用される吸入薬は
    ステロイド剤をはじめ、抗アレ
    ルギー剤、β刺激剤、抗コリン
    剤などがあります。
    商品名では、ベネトリン、
    アロテック、インタールなどがあります。



  • 水分補給、うがい、加湿
    ●目的
    水分を補給したり、部屋の加湿
    をすることで口腔及びその他の
    気道の乾燥を予防します。

    ●水分補給やうがい
    水分の補給やうがいをするだけ
    でも喉に潤いを与え痰がやわらかくなります。
    痰の排出が多い場合は、水分も
    一緒に失われますので、補給が大切になります。
    ★誤嚥の危険が高い場合は避けます。

    ●加 湿
    特に冬の乾燥しやすい時季には
    加湿が大切になります。
    吸入の方が直接気道に潤いを与
    え効果も大きいですが部屋全体
    を加湿することで持続的に気道
    に潤いを与えることが出来ます。



  • スクイージング、ハフィング
    ●目的
    スクイージング(胸郭を圧迫
    する方法)やハフィング(強制
    呼出手技)は気道の下部に貯留
    している痰などを気道の上部に
    移動させる為に有効です。

    ●スクイージングの方法
    息を吐く時(呼気時)に痰など
    が貯留している部位に手を当て
    て圧迫する方法です。
    呼気時に圧迫することで気道を
    出ていく空気の流れが速くなり
    分泌物が上気道に移動するのを
    促す効果が期待できます。
    吸気時は圧迫を解きます。
    分泌物が貯留している部位を
    上の方にして実施すると効果的。

    ●ハフィングの方法
    ゆっくりと息を吸い込んだ後、
    速く、強く、息をはくことで、
    痰を気道の上部に移動させる方法です。
    安静時呼吸又は少し多めに吸い
    込んだ後、声を出さずに、
    「ハッ ハッ ハッ」と強く
    早く息をはきだします。
    4~5回繰り返します。
    その後、咳をして痰などを出します。

    ※スクイージングもハフィング
    も専門家の指導のもとで実施
    した方がより有効で安全です。



  • 医療機器の使用による方法
    ネブライザー以外の医療機器に
    よる排痰法には陽圧療法があります。
    陽圧療法には呼気陽圧療法と
    振動呼気陽圧療法があります。

    ●呼気陽圧療法と振動呼気陽圧療法
    呼気時に陽圧をかけて痰などを
    移動させる方法があります。
    器具に息を吹き込んで気道内を
    陽圧にする療法を呼気陽圧療法といいます。
    陽圧をかけながらさらに振動を
    あたえる療法を振動呼気陽圧療法といいます。

    息を吹き込むと器具内に圧力が
    かかり、その反作用として、
    気道内に抵抗圧力がかかる仕組
    みになっています。
    気道内に圧力がかかると肺胞や
    気管支などの気道がひろがり、
    出ていく空気の流れが早まり、
    分泌物が上気道の方に移動しやすくなります。
    さらに振動が加わると効果がより高くなります。

    医療機器には商品名でアカペラ
    やフラッターなどがよく知られています。



  • 効果的な痰などの排出方法
    一つの方法だけではなく組み合
    わせることで、より効果的に痰
    の排出を促します。

    例えばスクイージングやハフィ
    ングを実施する際は、体位ドレ
    ナージの姿勢で実施したり、
    吸入、タッピング、バイブレー
    ション等の後に実施したりする
    など、いろいろ工夫することで
    より安楽に効果的に痰の排出を
    促すことが出来ます。

    医療機器を利用する場合も吸入
    と併用するとより効果が高くなります。

    ※一人一人病状や体格も違い
    ますし病状の変化で介護の方法
    も変わって行きますので、個人
    にあった具体的な介護方法は、
    担当の看護師などにお尋ね下さい。


    ◇参考文献
    書籍
    「写真でわかる基礎看護技術①看護技術を基礎から理解!」インターメディカ 
    「一歩先行く呼吸リハビリテーション」(メディカ出版)
    「医学大辞典」
    「家庭医学大百科」
    「広辞苑」

    インターネット
    ウィキーペアHP内
    https://ja.wikipedia.org/wiki/吸入器