呼吸の調節について


呼吸は意識してコントロールすることも
出来ますが、通常の呼吸運動は延髄に
ある呼吸中枢と、橋にある呼吸調節中枢
で調節されています。
呼吸の調節には神経的な調節と科学的な
調節等があり、様々な因子が影響しあっ
て呼吸数や換気量などが調節されています。


◆呼吸調節のメカニズム

延髄にある呼吸中枢には吸息中枢と
呼息中枢があります。
吸息中枢が刺激されると脊髄を介して
呼吸筋に情報が伝わり、吸息筋(横隔膜
や肋間筋)が収縮します。
横隔膜や肋間筋が収縮することで、胸郭
が拡張し、吸気が肺に流入します。
吸息中枢が興奮している時は、呼息筋は
抑制されます。
呼息中枢が刺激されると呼息筋が収縮します。
呼息中枢が興奮している時は、吸息筋は抑制されます。

★呼吸調節のメカニズムはまだはっきりと
解明されていない部分もある様です。


◆呼吸中枢への伝達経路

呼吸中枢を直接又は間接的に、刺激して
いる伝達経路には化学受容器と迷走神経
大脳などがあります。

●化学受容器
化学受容器には、中枢性化学受容器と
末梢性化学受容器があります。
化学受容器を刺激する要因には動脈血の
二酸化炭素分圧の上昇、酸素分圧の低下
pHの低下、水素イオンの増加等があります。

中枢性化学受容器
中枢性化学受容器は延髄にあります。
通常の正常呼吸での呼吸中枢の調節では
動脈血二酸化炭素分圧と延髄にある
中枢性化学受容器とが大きく影響しています。
呼吸中枢は動脈血二酸化炭素分圧を
35~45mmHgの範囲に調節しています
延髄にある中枢性化学受容器は、脳脊髄
液中の水素イオン(H+)に感受性が
あり、敏感に反応して、呼吸中枢に伝達します。
血液中の二酸化炭素は血液脳関門を通り
抜け、脳脊髄液中へ入ります。
脳脊髄液中に入った二酸化炭素は
重炭酸イオン(HCO3⁻)と水素イオン
(H⁺)に分解されます。
二酸化炭素分圧が高くなればH⁺も増加
し、中枢性化学受容器を刺激し、
呼吸中枢に伝わります。
呼吸中枢が刺激され、肺胞での換気を促します。
換気が促されることで、血液中の二酸化
炭素は肺胞へ拡散し呼気となって体外へ
呼出されます。
上記のような調節で、動脈血二酸化炭素
分圧を正常に保つとともに血液のpHも
調節しています。

末梢性化学受容器
末梢性化学受容器は総頸動脈分岐部に
ある頸動脈小体と、大動脈弓にある大動脈小体にあります。
頸動脈小体にある化学受容器が刺激され
ると舌咽神経を介して延髄にある呼吸中枢を刺激します。
大動脈小体にある化学受容器が刺激され
ると迷走神経を介して延髄にある呼吸中枢を刺激します。
末梢性化学受容器は主に、動脈血の酸素
分圧が低下した時に呼吸中枢へシグナル
を送ります。
動脈血酸素分圧が約60~70mmHg に
低下すると反応します。

●迷走神経
迷走神経を刺激する要因には、肺の伸展
などがあります。
吸息により肺が膨らむと興奮する受容器
(伸展受容器)があり、この時の刺激は
迷走神経を介して呼吸中枢に伝えら、
吸息運動を抑制します。
通常の呼吸運動で、吸息から呼息に移行
する時がこれにあたります。
吸息筋が収縮すると胸郭が拡張し、肺に
吸気が流入することで肺が伸展します。
この時に、肺の伸展受容器から迷走神経
を介して呼吸中枢に伝達され、吸息が
抑制されます。
これをヘーリング・ブロイエル反射といいます。

●大脳皮質
大脳皮質が呼吸中枢に刺激を与えること
で呼吸を制御することも出来ます。
神経的調節や科学的調節等に関係なく
随意的(意識的)な呼吸の調節になります
呼吸を止めたり、吐いたり、咳をしたり
笑ったり、臭いを嗅いだりする時等が
これにあたります。
又、精神状態が不安定な時などに大脳を
刺激し呼吸が速くなることがあります。
過換気症候群等がこれにあたります。


中枢神経系とは?
多数の神経細胞が集まっている領域。
脳と脊髄のこと。
脳は大脳、間脳、中脳、小脳、橋、延髄
などから構成されています。
中脳、橋、延髄を合わせて脳幹と呼びます。
(間脳を含めることも)
全身に分散している部分を末梢神経系といいます。

脳幹とは?
脳幹は中枢神経系の一つ。
中脳、橋、延髄を合わせて脳幹と呼ばれています。
(広義では間脳も含む)
大脳と脊髄の間に位置しています。
脊髄→延髄→橋→中脳→間脳→大脳
生命維持に欠かせない多くの役割を果たしています。

呼吸中枢の場所
脳幹にある橋と延髄にある。

呼吸の調節
呼吸をコントロールしているのは延髄に
ある呼吸中枢と橋にある呼吸調節中枢です。
呼吸運動を調整しています。
延髄にある呼吸中枢には吸息中枢と呼息中枢があります。
橋にある呼吸調節中枢は延髄の呼吸中枢
に刺激を送り、吸息と呼息の切換えを
調節していると考えられています。

血液ガスとは?
血液中に含まれる気体の総称。
酸素、二酸化炭素、窒素など。
酸素は血漿に溶解し大部分がヘモグロビンと結合。
二酸化炭素は血漿や赤血球内に入り、
多くは重炭酸イオンとなる。

分圧とは?
例、酸素と二酸化炭素の混合気体の場合
同じ体積(容器)に、2種類入った混合
気体の圧力は全圧。
酸素と二酸化炭素を同じ容器に別々に
入れたと仮定します。
同じ体積(容器)に酸素だけ入った圧力
は酸素分圧。
同じ体積(容器)に二酸化炭素だけ入っ
た圧力は二酸化炭素分圧。
混合気体での全圧は酸素分圧と二酸化炭
素分圧を合わせた圧。
各気体の分圧は各気体の物質量に比例します。
酸素の量が多いと酸素分圧も高くなる。
同じく二酸化炭素の量が多いと二酸化炭
素分圧も高くなる。

血液のガス分圧とは?
肺胞と肺胞を取り囲んでいる毛細血管間
でガス交換が行われています。
ガス交換を可能にしているのが酸素や
二酸化炭素の分圧になります。
例えば肺胞内の酸素を多く含んだ空気と
酸素が少ない血液(毛細血管)が接する
と、肺胞内の酸素は血液の方へ移動します。
肺胞内の酸素が血液へ移動した量と血液
に含まれる酸素の量が同じになると、
両方(肺胞内と血液中)の酸素量に変化
がなくなり、平衡になります。
この時の分圧は同じになります。
この平衡を血液のガス分圧といいます。
血液と平衡に達する気体の酸素分圧が
液体の酸素分圧と定義されています。
血液中の酸素分圧は酸素の含有量と温度
などで変化します。
肺胞内の気体の酸素分圧は約100Torr(mmHg)です。
動脈血の酸素分圧は80~100Torr(mmHg)です。
混合静脈血の酸素分圧は約40Torr(mmHg)です。
(動脈血の酸素分圧は年齢とともに低下します)
因みに、通常の大気中の酸素分圧150~160mmHgです。
大気中の酸素濃度は約21%です。
気体中の酸素分圧は酸素濃度や気圧、
湿度、温度などで変化します。
肺胞気の酸素分圧が高くなれば比例して
動脈血酸素分圧も上昇します。

血液ガス分析とは?
通常は動脈血のガス分析のことを指します。
略して血ガスとも呼ばれます。
肺でのガス交換を反映する検査になります。
水素イオン指数(pH)、
動脈血酸素分圧(PaO2)、
動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)、
動脈血酸素飽和度(SaO2)
重炭酸イオン(HCO3-)、
塩基過剰(BE)、
肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)等があります。

PaCO2とPaO2について
呼吸中枢は主に二酸化炭素が増加した時
や酸素が減少した時に呼吸の回数や深さ
を調節しています。
PaCO2は動脈血中に二酸化炭素を溶解させる圧力。
二酸化炭素の多くは血漿中にHCO3⁻として存在しています。
室内空気呼吸下での基準値は
35~45Torr(mmHg)です。
PaO2は動脈血中に酸素を溶解させる圧力。
酸素は血漿に溶解して、大部分が赤血球
のヘモグロビンと結合します。
室内空気呼吸下での基準値は
80~100Torr(mmHg)

PaO2とSaO2
SaO2は動脈血酸素飽和度のこと。
酸素と結合したヘモグロビンの割合をあらわしています。
室内空気呼吸下での基準値は
95%~99%
PaO2が高いとSaO2も高くなり、反対に
酸素分圧の低い末梢ではSaO2も低くなります。
呼吸不全の判定基準は動脈血酸素分圧が
60mmHg以下になります。
この時の動脈血酸素飽和度は
約90%以下です。
動脈血酸素飽和度が100%位になると、
PaO2が高くなっても酸素飽和度は変化しません。

略語の説明
PaCO2=動脈血二酸化炭素分圧
PaO2=動脈血酸素分圧
SaO2=動脈血酸素飽和度
SpO2=経皮的酸素飽和度
PACO2=肺胞気二酸化炭素分圧
P=圧力(pressure)
a=動脈(arterial)
S=飽和(saturation)
p=経皮的(percutaneuus)
A=肺胞の(alveolar)

pH(水素イオン指数)について
pHは酸性、アルカリ性の度合いを示す指標。
水素イオンの量を示しています。
水素イオン濃度が高いほど、酸性度が
強くなり、pHは小さい値になります。
7が中性で、7より小さいと酸性、
7より大きいとアルカリ性。

酸塩基平衡(体液のpH調節)
体液のpHは7.4付近で保たれています。
これを酸塩基平衡(体液のpH調節)といいます。
血漿中の重炭酸イオンによる緩衝作用と
二酸化炭素を排出する呼吸作用、
腎臓から水素イオンを排出する作用等が
協力し合ってpHを調節しています。
pHは重炭酸イオン(HCO3-)と二酸化
炭素の量の比で決まります。

二酸化炭素の運搬
組織呼吸(内呼吸)でのガス交換は、
血中の酸素が細胞内に取り込まれ、
取り込まれた酸素はグルコースなどの
有機物と反応し、最終産物として水と
二酸化炭素が発生します。
この過程で生命維持に欠かせないエネル
ギーであるATP(アデノシン3リン酸)
を作り出します。
代謝によって生じた細胞内の二酸化炭素
は組織液中に放出され、毛細血管内へ拡散します。
毛細血管内へ拡散した二酸化炭素は血漿
や赤血球内に入り運ばれますが、多くは
重炭酸イオン(HCO3-)へ変換された
状態で運ばれます。
赤血球内に入った二酸化炭素(CO₂)は
水(H₂O)と反応して炭酸(H₂CO₃)に
なり、すぐに水素イオン(H+)と重炭
酸イオン(HCO3⁻)に分解されます。
赤血球中にある炭酸脱水酵素の働きで
上記の反応が促進されます。
その後、重炭酸イオン(HCO3-)は
血漿中に放出され、水素イオン(H+)
はヘモグロビンと結合します。
肺に達すると上記の反応が逆向きに進行します。
同じ酵素が炭酸(H₂CO₃)を二酸化炭素
(CO₂)と水(H₂O)に速やかに変換します。
二酸化炭素は肺胞内へ拡散し、呼気となって体外へ排出されます。

炭酸脱水酵素
炭酸脱水酵素は反応速度を増大させる
触媒で、二酸化炭素と水を
炭酸(H₂CO₃)又は水素イオン(H⁺)と
重炭酸イオン(HCO₃⁻)に、
逆に炭酸(H₂CO₃)又は
水素イオン(H⁺)と
重炭酸イオン(HCO₃⁻)を
二酸化炭素と水に変換する速度を非常に
速める働きがある酵素です。
炭酸脱水酵素は主に赤血球中に存在しています。

TorrとmmHgとPa
トル、水銀柱ミリメートル又は
ミリメートル水銀柱、パスカル
全て、圧力の単位になります。
パスカルは国際的に定められた単位に
なりますが、トルと水銀柱ミリメートル
は国際単位系ではありません。
日本では、トルと水銀柱ミリメートルは
生体内の圧力の計量に限って使用する
ことが出来る単位です。
例えば、血液ガスの圧、頭蓋内圧、
気道内圧、眼圧等になります。
トルと水銀柱ミリメートルの定義は
同じで、1トル=1水銀柱ミリメートル
ですが、血圧の場合に使用できる単位は
水銀柱ミリメートルのみになります。

圧力の法定計量単位(日本の場合)
パスカル(Pa)、ニュートン毎平方メー
トル(N/m2)、バール(bar)、
気圧(atm)
上記の単位に10の整数乗を乗じた単位(hPa、mbarなど)
上記の単位に加えて、生体内の圧力を
計量する場合に限り
トル(Torr)、ミリトル(mTorr)、
マイクロトル(μTorr)
水銀柱メートル(mHg)、
水銀柱センチメートル(cmHg)
水銀柱ミリメート(mmHg)、
水柱メートル(mH2O)、
水柱センチメートル(cmH2O)、
水柱ミリメートル(mmH2O)


続きはこちらです→ 正常な呼吸




呼吸項目一覧




◇参考文献
書籍
「呼吸器看護ポケットナビ(中山書店)」p54~p64
「わかって身につくバイタルサイン(学研)」p101 p102
「人体生理学ノート(金芳堂)」p75~p78 p106 p107
「最新医学大辞典(医歯薬出版株式会社)」p477 p1103 p1297 p331 p911
「ミッフィーの早引き看護略語ハンドブック」p252 p254
「今日の臨床検査(南江堂)」p342~p350
「ポケット看護辞典(廣川書店)」p15

インターネット
特定非営利活動法人日本緩和医療学会サイト内
呼吸困難のメカニズム p15
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/respira/2016/pdf/02_01.pdf

J-STAGEサイト内(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja)
心身の調節と呼吸
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhas/5/1/5_1_1/_pdf/-char/ja
呼吸中枢の神経機構の生理・薬 理
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj1944/95/6/95_6_279/_pdf/-char/en
呼吸器の解剖 ・ 運動学 p24 p25
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinsyorigaku/4/3/4_KJ00002941855/_pdf
炭酸脱水酵素阻害薬の臨床 p44
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca1981/9/1/9_1_43/_pdf

UMINサイト内
5 呼吸器系のしくみと働 き
http://plaza.umin.ac.jp/~histsite/5resprtxt.pdf
血液による酸素と二酸化炭素の運搬
http://plaza.umin.ac.jp/~histsite/gasuunpan.pdf

真興交易(株)医書出版部サイト内
呼吸中枢
http://www.sshinko.com/wp/wp-content/uploads/74228.pdf

一般社団法人日本腎臓学会サイト内
生体内の圧力の計量単位に係る計量単位令の改正について
https://cdn.jsn.or.jp/news/DOC131002182431.pdf

ウィキペディアサイト内
https://ja.wikipedia.org/wiki/網様体
https://ja.wikipedia.org/wiki/脳幹
https://ja.wikipedia.org/wiki/ヘーリング・ブロイウェル反射
https://ja.wikipedia.org/wiki/トル
https://ja.wikipedia.org/wiki/水銀柱ミリメートル
https://ja.wikipedia.org/wiki/パスカル (単位)
https://ja.wikipedia.org/wiki/血液ガス分析
https://ja.wikipedia.org/wiki/水素イオン指数
https://ja.wikipedia.org/wiki/炭酸脱水酵素
https://ja.wikipedia.org/wiki/呼吸
https://ja.wikipedia.org/wiki/血液脳関門

統合データベースプロジェクトサイト内
炭酸脱水酵素の触媒活性機構
http://lifesciencedb.jp/dbsearch/Literature/get_pne_cgpdf.php?year=1995&number=
4012&file=k1pnLAdLqm2oLW1wZDVsQA