異常な呼吸とは、安静時の正常な呼吸
状態と比較して変化のある呼吸になります。
呼吸の数や深さ、リズム、長さ、呼吸音
などが正常な状態と異なる場合が異常な
呼吸になります。
*運動時は生理的に呼吸数や深さ等が増加します。
*数値は成人の安静時の値。
*数値は文献により多少異なります。
◆呼吸数の異常
安静時の呼吸数の異常では、大別すると
頻呼吸と徐呼吸があります。
●頻呼吸
頻呼吸は呼吸数が25回/分以上で、深さは変わりません。
リズムは規則的です。
頻呼吸の原因としては、発熱、心不全、
肺炎、肺水腫、呼吸不全等の疾患の他に
興奮や不安・恐怖などの心理的原因でも
頻呼吸になることがあります。
浅速呼吸
頻呼吸の一種で、呼吸が速く、浅い呼吸
になります。
浅すぎると測定が困難。
多呼吸
呼吸数の増加と呼吸の深さが増強した
呼吸になります。
●徐呼吸
徐呼吸は呼吸数が12回/分以下で、深さは変わりません。
リズムは規則的です。
徐呼吸の原因としては、頭蓋内圧亢進、
脳腫瘍、睡眠薬の大量投与、鎮静薬や
麻薬の投与などで見られます。
無呼吸
呼気の一時停止。
10秒以上の呼吸停止。
無呼吸症候群等にみられます。
呼吸停止
致死的な異常。
早急な救命措置が必要。
◆呼吸の深さの異常
深さの異常には過呼吸と減(浅)呼吸があります。
●過呼吸
安静時の呼吸の深さが深い呼吸を過呼吸といいます。
呼吸数は変わりません。
(原因などにより少し増加する場合もあります)
1回の換気量が増加します。
原因としては、発熱、過換気症候群、
神経症、代謝性アシドーシス等があります。
1回換気量が増加し二酸化炭素分圧が低下
すると、呼吸性アルカローシスの状態になります。
多呼吸
呼吸数、深さ共に増加。
過換気症候群や肺塞栓等で見られます。
●減(浅)呼吸
安静時の呼吸の深さが浅い呼吸を減呼吸
又は浅呼吸といいます。
呼吸数は変わりません。
減呼吸の原因としては、循環不全、
髄膜炎などで見られます
低呼吸について
呼吸の深さが浅く、1回の換気量が低下
している状態になります。
呼吸数も少ない。
換気量の50%以上低下等の状態。
無呼吸症候群等にみられます。
少呼吸
呼吸数、深さ共に減少し、換気量が低下した状態。
死亡直前や重篤な状態の時にみられます
◆呼吸リズムの異常
安静時の正常な呼吸は回数や深さも一定
です。
リズムは吸気と呼気の比が
1:1.5~2.0 の一定の規則正しい周期で
行われています。
呼吸のリズムの異常とは、回数や深さが
変化したり、吸気と呼気の比が変化する
ことでリズムが乱れ、正常な換気が行われなくなることです。
リズムの異常には、チェーンストークス
呼吸、クスマウル大呼吸、ビオー呼吸等があります。
●チェーンストークス呼吸
無呼吸から徐々に深い呼吸になり、
その後徐々に浅くなり、無呼吸になる
状態を、周期的に繰り返す異常呼吸になります。
呼吸中枢の障害を伴う脳疾患や、睡眠剤
中毒、重症心不全等の時に見られます。
●クスマウル大呼吸
呼吸の深さが極端に増加し呼吸数が減少
する異常呼吸になります。
規則的ですが通常、吸気の方が呼気より
長くなります。
糖尿病や尿毒症等の代謝性アシドーシスで見られます。
●ビオー呼吸
浅い深さの頻呼吸と無呼吸が交互に不規
則にあらわれる異常呼吸になります。
呼吸が突然中断し無呼吸になり再び頻呼吸になります。
これを不規則に繰り返す失調性呼吸になります。
髄膜炎や脳炎、脳腫瘍、脳外傷等の時に見られます。
脳幹損傷時などにも見られます。
◆呼吸様式が異常な呼吸
正常な安静時の呼吸で動員される呼吸筋
は通常、吸気時の外肋間筋と横隔膜です
呼気時は呼吸筋は動員されません。
呼吸様式は外肋間筋が働く胸式呼吸と
横隔膜が働く腹式呼吸が共存した呼吸運動になります。
外肋間筋や横隔膜だけでは呼吸運動が
困難な場合は、呼吸補助筋等他の筋肉が
動員され呼吸を助けようとします。
この時の呼吸様式は正常な呼吸様式とは
異なってきます。
呼吸様式が異常な呼吸には努力呼吸、
陥没呼吸、奇異呼吸等があります。
●努力呼吸
努力呼吸とは、通常の呼吸筋(外肋間筋
や横隔膜)だけでは呼吸が困難な時に
呼吸補助筋の力をかりて呼吸することを
努力呼吸といいます。
気道の狭窄や閉塞時、臨終前等に見られます。
努力呼吸には、鼻翼呼吸、下顎呼吸、
肩呼吸、陥没呼吸などがあります。
鼻翼呼吸
吸気時に鼻翼を開いて、空気を少しでも
多く取り込もうとする呼吸になります。
臨終が近い時や重篤な呼吸不全等の時に見られます。
乳児では呼吸窮迫症候群などで見られます。
下顎呼吸
下顎を動かして、口をパクパクさせて
呼吸をする状態です。
肺での換気は行われておらず極めて悪い
状態になります。
臨終が近い時や重篤な呼吸不全等の時に見られます。
肩呼吸
僧帽筋等が動員され肩の上下運動を伴う
呼吸になります。
喘息発作時等に見られます。
陥没呼吸
胸腔内が強い陰圧になる事で、吸気時に
肋間や胸骨上、鎖骨上、みぞおち等の
部分が陥没する呼吸になります。
上気道の狭窄や閉塞があると息を吸おう
として、吸気筋が収縮しても充分な空気
が肺へ流入しない為、強い陰圧のままに
なります。その為、胸郭の軟らかい部分
が凹むことになります。
気道に痰などの分泌物があると、内腔が
狭くなり、気道抵抗が強くなります。
喘息の発作時や、乳児では呼吸窮迫症候
群などでも見られます。
吸気延長
咽頭浮腫など、上気道の狭窄や閉塞等の
時に見られます。
呼気延長
気管支喘息発作時や慢性閉塞性肺疾患等
末梢気道の狭窄や閉塞などの時に見られます。
●奇異呼吸
胸郭の動きが左右対称でない呼吸になります。
気胸が左側にある場合、呼気時には右側
(健側・閉胸側)の肺のガスの一部が
左側(患側)に入ります。この時は縦隔
が左側(患側)へ移動します。
吸気時は逆に左側(患側)の肺のガスの
一部が右側(健側)の方へ移動します。
この時は縦隔は右側に移動します。
肺のガスの一部は、単に左右に移動する
だけで正常な換気は行われていません。
気胸や無気肺、血胸等が片側にある場合に見られます。
シーソー呼吸
奇異呼吸の一つ。
正常な呼吸では吸気時は胸部、腹部共に
上がり、呼気時には共に下がります。
シーソー呼吸では、胸部と腹部が逆の動きをします。
吸気時に胸部が下がり、腹部が上がります。
呼気時には胸部が上がり、腹部が下がります。
気道狭窄が強い場合や肺コンプライアン
スが著しく低下した場合などに見られます。
小児では喘息の発作時にも見られます。
フレイルチェスト(動揺胸郭・胸壁動揺)
奇異呼吸の一つ。
胸郭を支えている肋骨や胸骨が骨折した
場合に、支持性が失われることで引き起
こされる呼吸状態です。
支持性が失われた部分は、吸気時には
胸腔内の陰圧が強くなるため陥没します
呼気時には、外の方へ突出します。
通常、連続する肋骨が3本以上、2ヵ所
以上で骨折した時に出現するとされています。
◆体位による呼吸状態の変化
坐位や側臥位、前傾姿勢等の体位をとる
ことで呼吸困難が軽減する場合があります。
安静時の正常な呼吸では、体位の変化で
呼吸状態が変化することは通常ありません。
坐位でも臥位でも呼吸状態が大きく変化
することはありません。
呼吸困難がある場合は、病態により
仰臥位より坐位や側臥位の方が楽に
呼吸できる場合があります。
●起座呼吸
起坐位や半坐位になることで呼吸が楽に
なる場合を起坐呼吸といいます。
臥位の状態になると肺への血液量が増加します。
坐位になると下半身への血液分布が増え
肺への静脈還流量が減少します。
左心不全や肺水腫などがある状態で臥位
になると静脈還流量が増し、肺うっ血が増強します。
その為、坐位になる事で、肺への血液量
を少なくし、うっ血を軽減することが出来ます。
喘息の発作時は起坐位をとることで、
横隔膜が下がり、呼吸運動が楽に出来ます。
●片側臥位呼吸
片方に著しい換気不全がある場合は、
健側を上にすると肺野が広がり呼吸困難
が軽減されます。
片方に高度の気胸や無気肺、胸水貯留
等がある場合は、患側を下にして側臥位
になると、呼吸困難が軽減します。
●前傾姿勢
前かがみになると横隔膜や呼吸補助筋の
運動が容易になります。
気管支喘息などに見られます。
チェーンストークス呼吸とビオー呼吸の違い
チェーンストークス呼吸とビオー呼吸の
共通しているところは無呼吸と頻呼吸を
繰り返すことと、呼吸の深さが一定ではない点です。
違いはチェーンストークス呼吸は周期的
(規則的)に無呼吸と頻呼吸を繰り返し
ますが、ビオー呼吸は不規則で一過性の
場合が多い呼吸になります。
又、チェーンストークス呼吸では徐々に
呼吸が浅くなって、無呼吸になりますが
ビオー呼吸の場合は突然、無呼吸になります。
呼吸補助筋
呼吸補助筋とは努力呼吸等の時に使われる筋肉のこと。
安静時に使われる横隔膜や外肋間筋以外
の呼吸筋を呼吸補助筋といいます。
吸気(吸息)の努力時に使われる筋肉は
胸鎖乳突筋、僧帽筋、斜角筋等があります。
呼気(呼息)の努力時に使われる筋肉は
内肋間筋、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋
腹横筋等が収縮します。
呼吸補助筋は努力呼吸や深呼吸、運動、
咳嗽時などに使われます。
続きはこちらです ⇒ 呼吸不全について