脈拍数の異常


脈拍数の異常には、頻脈と徐脈があります。

◆頻脈(頻拍)の原因

頻脈の原因には運動や不安緊張などの
生理的なものと、基礎疾患を伴う病的なものがあります。
基礎疾患としては冠動脈疾患や心筋疾患
WPW症候群、甲状腺機能亢進症などがあります。
頻脈の種類には、洞頻脈、発作性上室性
頻拍、心房粗動、心房細動、発作性心室
性頻拍、心室粗動、心室細動等があります。
心電図で鑑別します。
洞頻脈の原因には、発熱、貧血、甲状腺
機能亢進症、心不全、運動、不安緊張、
疼痛等があります。

*洞頻脈は、洞結節での興奮が亢進している状態です。
心電図の波形が正常で症状がなければ
処置は必要としない場合もあります。


◆徐脈の原因

徐脈の原因には、洞機能不全症候群、
心筋炎、脳圧亢進、甲状腺機能低下症、
神経原性ショック、脳圧亢進、
薬剤(β遮断薬やジギタリス製剤など)などがあります。
徐脈の種類には、洞性徐脈、洞停止、
房室ブロック、脚ブロック、徐脈性心房
細動などがあります。
心電図で鑑別します。

*徐脈が全て異常ではありません。
スポーツ選手では50回未満の場合もあるようです。


頻脈の主な症状
動悸、眩暈、息苦しさ、呼吸困難、胸痛
前胸部の不快感、冷汗、顔面蒼白、
チアノーゼ、四肢冷感、虚脱感、不安、
混乱、意識低下などがあります。

*個人差もあり、症状が無い場合もあります。


徐脈の主な症状
疲れやすい、めまい、ふらつき、動悸などがあります。
重症では、うっ血性心不全やアダムスト
ークス症候群(意識喪失)を起こすこともあります。

*個人差があり、症状が無い場合もあります。


冠動脈疾患
冠動脈疾患とは虚血性心疾患のことで、
狭心症や心筋梗塞などがあります。
心筋に血液を送る3本の冠動脈に狭窄や
閉塞、攣縮などの異常が起こると冠動脈
の循環が障害され、心筋が虚血状態になります。

心筋疾患
心筋疾患には、心筋症、心筋炎、
心臓腫瘍などがあります。

WPW症候群
Wolff Parkinson White syndrome
ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群
(3人の研究者の頭文字をとりWPWと名づけられる)
早期興奮症候群のこと。
上室性の頻脈性不整脈の一つ。
正常の刺激伝道路以外からの経路
(Kent束と呼ばれる副伝導路)にも
刺激が伝わるため心拍数が多くなる。
発作性上室性頻拍症を起こしやすい。
心電図での特徴的な所見としては、
PQの短縮、QRSの幅が広く
はじめの部分にデルタ波と呼ばれる
三角形の部分があります。

*上室とは洞結節や心房、房室接合部などの心室以外の組織


洞機能不全症候群(病的洞機能症候群)
シックサイナスシンドローム(SSS)
洞結節の働きが悪く、高度の徐脈や洞不整脈、
上室性不整脈を引き起こす病態。
脳循環障害が起こると、アダムストーク
ス発作を引き起こします。
SSSに含まれる不整脈には、高度の
洞徐脈、洞停止又は高度の洞房ブロック
徐脈頻脈症候群(BTS)があります。

アダムストークス症候群(アダムストークス発作)
心臓から脳へ拍出される血液が停止又は
極端に減少して、脳虚血となった状態で
眩暈や意識消失、痙攣などの症状が現れ
最悪、死にいたることもある病態。
原因は、洞休止や高度房室ブロック、
心室細動による心停止、心房細動、
心房粗動、心室頻拍などがあります。

神経原性ショック
突然の痛みや精神的打撃などで迷走神経
が興奮して起こるショック状態。
迷走神経が興奮すると心拍数の減少、
血管が拡張して循環血液量が減少。
血圧低下、冷汗、気分不快、顔面蒼白、
徐脈、失神等の症状が現れることがあります。
第6胸椎より高位の脊髄損傷によって、
交感神経系の緊張が低下した時にも、
神経原性ショックが生じるとされています。
皮膚の温度は、末梢血管が拡張するため
温かく、他のショックとの区別に有効。
治療は安静のみで回復する場合もあります。
必要時には、末梢血管を収縮させる薬剤
(カテコールアミン等)や、徐脈がみら
れる場合は、副交感神経を遮断する薬剤
(アトロピン等)を投与します。

心臓の刺激伝導系
心臓は電気的興奮で拍動しています。
正常な刺激伝導では、右心房の上大静脈
基部にある洞(房)結節から電気的刺激
が規則正しく発生します。ここから発生
した刺激が右心房、少し遅れて左心房へ伝わります。
さらに心房と心室の間にある房室結節に
興奮が伝わり、心室中隔にあるヒス束を
通り、心室の左脚と右脚に伝わります。
最後にプルキンエ線維によって心室心筋
に刺激を与えます。
プルキンエ線維はヒス束から始まり、
左脚、右脚にわかれ、枝分かれし、心室の内壁を覆っています。
洞結節が正常に機能している状態を
正常洞調律といいます。

続きはこちらです→ リズムの異常


脈拍 項目一覧


◇参考文献
書籍
「人体生理学ノート」金芳堂 1982年 p86~p88
「わかって身につくバイタルサイン」学研 2013年 p40~p62 
「フィジカルアセスメント ナースに必要な診断の知識と技術」第4版 医学書院 2007 p27~p30 p82
「ナース必携最新基本手技AtoZ」EXPERT・NURSE 保存版 小学館 1994 p27~
「心電図・ナースのためのワークブック」金芳堂 1985 p66~
「新・検査マニュアル」小学館 1993  p28~
「ゼロからわかる救急・急変看護」成美堂出版 2013年 p102~
「介護職員等のための医療的ケア 喀痰吸引・経管栄養等の研修テキスト」p50 p51
「ナース必携心電図マニュアル」小学館 
「最新医学大辞典」医歯薬出版株式会社 p1223 p1387 p685

インターネット
ウィキペディアHP
http://ja.wikipedia.org/wiki/拍動
http://ja.wikipedia.org/wiki/パルスオキシメーター
http://ja.wikipedia.org/wiki/心拍数
http://ja.wikipedia.org/wiki/不整脈
http://ja.wikipedia.org/wiki/期外収縮
http://ja.wikipedia.org/wiki/頻脈
http://ja.wikipedia.org/wiki/徐脈
http://ja.wikipedia.org/wiki/心房細動
http://ja.wikipedia.org/wiki/房室ブロック

冠動脈疾患
「最新医学大辞典」医歯薬出版株式会社 p327
ウィキペディアHP内
http://ja.wikipedia.org/wiki/虚血性心疾患

WPW症候群
最新医学大辞典 p102
「心電図・ナースのためのワークブック」金芳堂 1985 p96
「最新医学大辞典」医歯薬出版株式会社 p102

洞機能不全症候群
「心電図・ナースのためのワークブック」金芳堂 1985 p104
「最新医学大辞典」医歯薬出版株式会社 p1005

アダムストークス症候群
「ナース必携心電図マニュアル」小学館 p79
「心電図・ナースのためのワークブック」金芳堂 1985 p104
「最新医学大辞典」医歯薬出版株式会社 p19

神経原性ショック
最新医学大辞典」医歯薬出版株式会社 p700
ウィキペディアHP内
https://ja.wikipedia.org/wiki/ショック

心臓の刺激伝導系
「心電図・ナースのためのワークブック」金芳堂 1985 p8
「最新医学大辞典」医歯薬出版株式会社 p1018