呼吸不全とは、肺胞でのガス交換が障害
されたり、換気不全が起こることで生命
に危険をもたらす病態になります。
臨床的には血液ガス分析により判断されます。
原因に関係なく動脈血ガス、特に酸素と
二酸化炭素の異常で、生体が正常に機能
出来なくなった状態が呼吸不全になります。
室内の空気を安静時に吸入した場合に、
動脈血酸素分圧が60Torr(mmHg)以下
となる呼吸障害が、呼吸不全と診断されています。
動脈血酸素分圧が60Torr(mmHg)とは、
健康な人が呼吸を止めて、しばらくしたら
苦しくてたまらなくなった時の値に、ほぼ
相当するようです。
◆呼吸不全の型・種類
呼吸不全には慢性呼吸不全と急性呼吸
不全があります。
呼吸不全の状態が安定期の状態で1ヶ月
以上続くものを、慢性呼吸不全といいます。
急速に呼吸不全が起きることを急性呼吸
不全といいます。
それぞれⅠ型とⅡ型があります。
動脈血酸素分圧が60Torr(mmHg)以下
が呼吸不全ですが、高二酸化炭素(高炭
酸)血症を伴うものと伴わないものがあります。
高二酸化炭素血症を伴わない呼吸不全が
Ⅰ型、伴う呼吸不全がⅡ型になります。
呼吸不全の種類としては、急性Ⅰ型呼吸
不全、急性Ⅱ型呼吸不全、慢性Ⅰ型呼吸
不全、慢性Ⅱ型呼吸不全の4種類があります。
動脈血二酸化炭素分圧が45mmHg以上に
なった状態が高二酸化炭素(高炭酸)血症
◆急性呼吸不全
急激に低酸素血症、あるいは、高二酸化
炭素血症に陥った場合を急性呼吸不全といいます。
主な原因には、薬剤などによる呼吸中枢
の抑制、外傷や神経筋疾患等による呼吸
筋や胸郭の運動障害、急性肺塞栓、
肺水腫、肺炎、気管損傷、基礎疾患の
急性増悪などがあります。
早急に対応する必要があります。
治療としては酸素吸入や人工呼吸器の
装着、基礎疾患に対する治療等があります。
Ⅰ型の場合
パルスオキシメータを使用して経皮的
動脈血酸素飽和度(SpO2)を継続的に
モニタリングします。
酸素の流量を調整しながら酸素飽和度が
90%以上になる様に酸素化の改善をはかります。
酸素の投与方法には、酸素化し易い順に
鼻カニューレ、マスク、人工呼吸器等があります。
Ⅱ型の場合
CO2ナルコーシスを予防する為に、酸素
流量は0.1L/min 刻みの酸素流量計を
使用し小刻みな調整が必要になります。
二酸化炭素分圧を把握する為には、頻回
に動脈血を採取し、血液ガス分析検査を
実施する必要があります。
改善が見られない場合は人工呼吸へ移行します。
Ⅱ型の場合もパルスオキシメータを使用
して酸素飽和度も継続的にモニタリングします。
◆慢性呼吸不全
慢性呼吸不全は呼吸不全の状態が1ヶ月
以上続く病態になります。
基礎疾患が原因となって引き起こされます。
主な原因には慢性閉塞性肺疾患(COPD)
間質性肺炎、肺がん、肺結核後遺症、
肺線維症、神経筋疾患、高度肥満などがあります。
安定している場合は在宅で呼吸管理をする場合が多いです。
Ⅰ型の場合
在宅療養になる場合が多い為、日常生活
に応じた酸素療法が必要になります。
特に睡眠時は低換気になる場合もある為
注意が必要です。
パルスオキシメータを使用してSpO2が
90%より低下しない様に酸素を調整します。
又、長期療養に伴い、二酸化炭素分圧が
上昇する場合もある為、時折、動脈血を
採取し血液ガス分析検査を実施する必要もあります。
カプノメータを使用して呼気中の二酸化
炭素濃度を把握する方法もあります。
Ⅱ型の場合
Ⅰ型と比べ、酸素流量は微調整が必要になります。
微量の酸素を調節できる酸素流量計を
使用し小刻みな調整が必要になります。
Ⅱ型呼吸不全は高二酸化炭素血症を伴っ
ている為、高濃度の酸素を投与すると
CO2ナルコーシスになる危険があります
二酸化炭素の状態を把握する為に、カプ
ノメータを使用し、呼気中の二酸化炭素
濃度を測定したり、動脈血を採取し、
高二酸化炭素血症が増悪していないか
チェックする必要があります。
二酸化炭素分圧がさらに高くなった場合
は酸素療法だけでは不十分になります。
人工呼吸器による補助換気が必要になります。
在宅では主に非侵襲的陽圧換気
(NPPV)による呼吸管理が可能になっています。
慢性呼吸不全の基本的な治療は
酸素療法、呼吸リハビリテーション、
人工呼吸療法になります。
安定している場合は、在宅療法が中心になります。
◆Ⅰ型呼吸不全
Ⅰ型呼吸不全は動脈血酸素分圧の低下
(低酸素血症)はあっても動脈血二酸化
炭素分圧の上昇(高二酸化炭素血症)を
伴わない呼吸不全になります。
主にガス交換の障害によって引き起こされます。
Ⅰ型呼吸不全の機序としては、拡散障害
換気・血流比(V/Q)の異常と不均等
肺内シャント等があります。
気道や肺胞、肺血管の異常、貧血、
心疾患などがあると引き起こされます。
疾患の例としては、間質性肺炎、無気肺
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺血栓症
肺炎、肺線維症、肺門部腫瘍などがあります。
◆Ⅱ型呼吸不全
Ⅱ型呼吸不全は動脈血二酸化炭素分圧の
上昇(高二酸化炭素血症)を伴う低酸素
血症になります。
動脈血二酸化炭素分圧が上昇する原因は
肺胞換気量の低下による換気不全によっ
て引き起こされます。
肺胞に出入りする空気の量(換気量)が
減少した場合には、血中に取り込まれる
酸素の量も減りますが、排出される二酸
化炭素の量も減少する為、血中に溜まっ
てくることになります。
動脈血二酸化炭素分圧が45mmHg以上を高二酸化炭素血症
●主な原因
中枢神経障害
薬剤(鎮静剤、睡眠剤、麻薬など)、
脳血管障害(脳梗塞、脳内出血等)、
外傷など。
神経や筋疾患
重症筋無力症、呼吸筋麻痺、呼吸筋疲労
脊髄損傷、有機リン中毒、フグ中毒等。
胸郭の異常
高度の脊柱後側弯症、高度の肥満、
胸部の外傷など。
胸腔内の異常
胸水、気胸、血胸など。
気道の障害
気道疾患、気道閉塞(分泌物や異物等による閉塞)
気管支喘息の増悪、閉塞性睡眠時無呼吸
症候群(OSAS)など。
慢性的な肺疾患の増悪
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、
間質性肺炎などの増悪。
CO2ナルコーシスとは?
肺胞の換気量が低下することで、血中の
二酸化炭素が増加し自発呼吸の減弱、
意識障害、呼吸性アシドーシスをきたす病態。
換気障害のある状態で、呼吸器感染や
心不全などの合併、高濃度の酸素投与、
呼吸中枢抑制剤投与などで誘発されやすい。
二酸化炭素分圧が高めのⅡ型呼吸不全に
対する酸素投与は少量(低濃度)から
開始して、微調整しながら投与します。
慢性Ⅱ型呼吸不全の患者さんでは、延髄
にある化学受容体が二酸化炭素に対して
感受性が鈍くなっています。
呼吸不全は酸素分圧が低い状態ですので
この時の呼吸中枢への刺激は、低酸素に
よって、呼吸が維持されている状態になります。
二酸化炭素に反応が弱く、低酸素の刺激
で呼吸が維持されている状態で高濃度の
酸素を投与すると、低酸素の刺激がなく
なります。そうすると呼吸が抑制され、
増々、二酸化炭素が蓄積することになります。
動脈血中の二酸化炭素分圧が上昇すると
呼吸性アシドーシスになります。
治療は、早期に人工呼吸療法(NPPVや
IPPV)を実施します。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは?
肺気腫や慢性気管支炎の総称。
有害な煙や大気を長期間吸うことで引き
起こされる肺の疾患です。
喫煙と深い関係があるといわれています
咳や痰、息切れなどが主な症状です。
低酸素血症の原因
低酸素血症の発生機序には、拡散障害、
換気量の低下、換気・血流比の不均等、
死腔換気、肺内シャント、貧血等があります。
続きはこちらです ⇒ 低酸素血症について