胃洗浄


◆胃洗浄とは?

簡単に言うと、胃の中を洗浄液で綺麗に
することです。
救急で実施されることが多い処置です。
睡眠薬を多く飲んだり、農薬など体内に
吸収されると、命の危険や障害を惹き起
こす危険がある物が、胃の中に入った時
に、実施されます。
又、胃の内容物が十二指腸には行かず、
停滞してしまう場合にも実施されます。

◆胃洗浄の目的

多量の薬物や有害物などが胃内に入った
場合は、早急に体外へ排出する必要があ
ります。胃内に入った物を体外へ出して
胃の中を綺麗にして、体内への吸収を
少しでも抑えることが目的です。
又、胃の粘膜を保護する目的もあります

▼急を要するケース

多量の薬物の服用、毒薬、劇薬、など

飲み込んだ種類によって、胃の中の停滞
時間は違うため、飲み込んだ種類や量、
時間を把握しておくことが大切になります。
時間が経過するほど胃洗浄の効果が低く
なるため、出来るだけ早く実施すること
が大切です。通常、1時間以内の実施が望ましいようです。


◆胃洗浄をしてはいけないケース

●飲み込んだ種類が強酸性の物、強アル
カリ性の物、石油系製品などの場合

●意識レベルが低下している場合や痙攣
がある場合

誤嚥の危険があるため、挿管が必要となります。

●胃穿孔
●食道静脈瘤
●重度の心臓疾患や肺疾患のある方 等


◆胃洗浄の合併症

●誤嚥性肺炎・呼吸困難・気道粘膜の損傷

胃の中の内容物や中毒物質が気管に入ると
肺炎や呼吸困難、気道粘膜の損傷などの
合併症を惹き起こす危険がある為、十分注意します。


●食道や胃の損傷
太い管を挿入する為、粘膜を傷つけないように注意します。

気管への誤挿入

胃内へ確実に挿入されたか聴診器で確認します。


●電解質の異常

洗浄液には生理食塩水や水、微温湯等が使用されます。
大量の生理食塩水を使用すると、高ナトリ
ウム血症に、反対に大量の水や微温湯を
使用すると、低ナトリウム血症になる危険
があります。
小児の場合は、水や微温湯で洗浄した場合
ナトリウムが低下し易いため、生理食塩水
を使う方が良い様ですが、量には注意が必要です。


●低体温症 等
水で洗浄する時は注意が必要です。


◆胃洗浄の方法

医師が実施します。

担当医師や医療機関などにより、手順や
必要物品等が異なる場合もあります。


必要物品 例
●胃洗浄に必要な物品
胃管、連結管、漏斗、洗浄液、排液の容
器(バケツなど)、聴診器、注射器、
ゴムシーツ、ゴム手袋など。

漏斗の代りに、イリゲーターや注射器を
使用する場合もあります。
Y字管やクレンメなどを使用する場合もあります。


●救急処置に必要な物品
急変した場合の準備は常にしておきます
救急カート、酸素吸入、吸引セット等。


胃洗浄の手順 例
患者さんが意識がある場合。

①患者さんを坐位又は、左側臥位にさせる
右に向けると、胃の内容物が十二指腸に
流れやすくなり、腸へ吸収を早めてしまう為です。

②ゴムシーツを敷く

③医師にゴム手袋を渡す
看護師もゴム手袋を着用

④胃管を医師に渡す
胃管を医師が挿入します。

⑤胃管が胃の中に挿入されたかどうかの確認

聴診器を胃の部分にあて、胃管から注射
器で空気を送り込む。
気泡の音がすれば、胃の中に挿入されて
いることになります。
又は、注射器で吸引し胃内容物を確認します。

⑥胃洗浄の実施
胃管が挿入されたら、胃管の先に取り付
けた漏斗に洗浄液を入れます。

胃管と漏斗は連結管でつながれています。

サイフォンの原理を利用して、数回洗浄します。

医師によっては、100mlのシリンジを
使用する場合もあります。


⑦活性炭と緩下剤の注入
胃の中が綺麗になったら、胃管を抜く前
に、解毒剤の活性炭を微温湯等で薄めて
注入します。その後、下剤を注入します
活性炭の黒い便が出るまで、下剤を投与
します。
下剤は、油性の下剤(ひまし油など)は
与えません。多く使用されている緩下剤
としては、ソルビトール(糖類下剤)
ある様です。

患者さんが意識がない場合は、
気管内チューブを挿入してから実施します。

乳幼児の場合は胃洗浄よりも、催吐剤を
使用して、吐かせるケースが多いようです。


◆洗浄液の種類

生理食塩水、水又は微温湯。
微温湯の場合は、低体温の危険を防ぐ
ことが出来ます。

★解毒剤(活性炭など)の投与について
活性炭の投与は、胃洗浄より効果がある
といわれています。
胃洗浄後に繰り返し投与(胃管から又は
経口的に)することにより、効果が高まります。

活性炭はヒ素やフッ素化合物などは吸着
出来ないようですが、それ以外の中毒に
は活性炭の投与が推奨されています。


◆洗浄液の量

成人では、1回の量が200~300ml
300mlを超えないように。
洗浄液が綺麗になるまで、繰り返します

◆胃洗浄に使用される胃管の種類 

緊急時の胃管の例
緊急で胃洗浄をする場合は、胃内に食物
残渣などが残っている可能性もある為、
太い単管を使用するケースが多いと思います。
内容物で管が詰まる可能性があるためです。
カテーテルの素材には、天然ゴム、
シリコーンゴム、シリコン樹脂等があります。

天然ゴムの特徴
●まれにアレルギー症状を起こすことがある
●1回の使用が多く、留置には適さない
●弾力性や強度が高い
●熱や油性、ガソリン、薬品などに弱い

商品名例
ザヘルス 胃カテーテル
天然ゴム製の胃洗浄チューブで、
ルートが一本の管(単管)です。

シリコーンゴムの特徴
●安全性が高く、長期の使用に適している
●耐熱性に優れている。

商品名例 
サーフィード胃管カテーテル
単管と二重管タイプがあります。

◆洗浄・消毒・滅菌の方法

使い捨てが理想。

再利用する場合の胃管の洗浄・消毒・滅菌方法 例

胃管の素材などにより取り扱い方は異なります。
より正確な情報に関しては、各医療機器の
取扱説明書等をご覧頂ければと思います。
又医療機関や医師などにより異なる場合も
ありますので、あくまでも一つの例として
ご理解頂ければと思います。

胃管は正常な粘膜に触れる場合は、セミ
クリティカル機器に分類されると思いま
すが、粘膜が損傷している場合は滅菌が
必要になるケースもあると思います。


洗浄方法
胃管に限らず、医療機器で繰り返し使用
する物の殆どは水道水や洗剤を使用して
十分に洗浄します。

消毒方法
ゴム製にも天然ゴムとシリコーンゴム等
があります。
天然ゴムの場合は煮沸消毒だと変形した
りするため出来ません。
その為、消毒液を使用して消毒します。
シリコーンゴムの場合は煮沸消毒も出来ます。

滅菌方法
エチレンオキサイドガスによる滅菌。
滅菌する前に十分に乾かします。

イリゲーターや漏斗の消毒方法
綺麗に洗浄した後、消毒します。
ノンクリティカル機器に分類される為、
中水準消毒または低水準消毒が必要になります。

洗浄・消毒・滅菌に関しての詳細は下記
をご参照下さい。(当サイト内)
洗浄・消毒・滅菌について 

意識レベルが低下している場合の胃洗浄
意識レベルが低下している方や痙攣の
ある方には、誤嚥を避けるため、気管内
挿管をして、気管内チューブの先の方に
ついている、カフを膨らませ固定させて
から洗浄をします。
カフを膨らませることにより、胃の内容
物が気管内へ流出する危険を防ぐことが出来ます。

胃洗浄が必要でないケース
呑み込んだ時間から一定時間経過してい
る場合は、輸液と利尿で早く体外へ排出させます。
呑み込んだ種類や量により胃洗浄が必要
でないケースもあります。
胃洗浄が活性炭よりも有効なケースは、
活性炭が吸着しにくい場合や腸閉塞等がある場合。

活性炭の役割
活性炭は多くの物質を吸着させることが
出来、又、体内には吸収されないなどの
性質があります。
中毒物質が活性炭に吸着することで、
体内への吸収を減少させる役割があります。

緩下剤の役割
腸内での中毒物質を早く体外へ排出させ
る役割があります。
活性炭に吸着した物質を早く体外へ出す
ことで、中毒物質の体内への吸収をより
減少させることができます。







◇参考文献
インターネット
一般社団法人日本中毒学会サイト内
消化管除染(1) 胃洗浄
http://jsct-web.umin.jp/shiryou/standardtreatment/急性中毒の標準治療/hyojyun4_1/
消化管除染(2) 活性炭
http://jsct-web.umin.jp/shiryou/standardtreatment/急性中毒の標準治療/hyojyun4/
消化管除染(3) 緩下剤
http://jsct-web.umin.jp/shiryou/standardtreatment/急性中毒の標準治療/hyojyun5/

ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/胃洗浄
https://ja.wikipedia.org/wiki/活性炭

書籍
医学大辞典(医歯薬出版株式会社)胃洗浄 p66


最終更新日 2018年12月