口腔内吸引


  • 口腔内吸引  項目一覧
    口腔内吸引の必要性
    清潔操作について(在宅)
    必要物品等について(在宅ケア用)
    吸引前の準備
    口腔内吸引の実践手順:例
    物品等の管理
    吸引時間、吸引のコツ、注意点など


  • 口腔内吸引の必要性
    口腔内には唾液の他に気管支や
    気管などから分泌された痰や
    鼻腔から分泌された鼻汁などが
    存在する場合もあります。
    唾液は口腔内に開口している
    唾液腺から分泌されるため、
    吸引する量や回数が他の部位
    (気管、鼻腔など)より多くなります。
    嚥下困難などがあると、唾液や
    痰などが口腔内に多量に溜まりやすくなります。
    そうなると誤嚥のリスクが高く
    なったり、流涎(よだれ)が多くなります。

    ◆メモ◇~~~~~
    痰の移動
    気管支内や気管内に存在する痰
    は咳や気道粘膜の絨毛の働き等
    で通常は気道の上部に上がってきます。

    唾液腺とは?
    唾液腺は舌の下にある舌下腺
    顎のえら(出っぱたところ)の
    内側にある顎下腺、耳たぶの下にある耳下腺があります。
    ◇◆◇◆~~~~~



  • 清潔操作について(在宅)
    口腔内は気管内と比べて清潔で
    はありませんが、なるべく清潔
    を保てるようにケアすることが大切です。

    清潔操作は気管内より厳格ではありません。
    一般的に家庭内での処置は病院
    などより清潔操作は厳密ではありません。
    病院などではカテーテルは使い捨てが基本です。
    口腔鼻腔用は乾燥、又は消毒後に
    再利用するケースもあります。

    家庭では(同じ人に使用する
    場合)清潔にしていれば破損や
    変色などなければ何回でも使用は可能です。

    ★医療機関の場合
    病院などでは病原菌や感染源
    媒介する人や物が多いため感染
    しやすい環境です。又抵抗力の
    弱い方が多く入院しているため
    感染のリスクがより高くなります。
    清潔操作は家庭での操作より厳格になります。



  • 必要物品等について(在宅ケア用)
    ◆口腔内吸引時の必要物品等
    吸引器(本体、吸引ビン、接続
    チューブ)、口腔用吸引カテー
    テル、消毒液(カテーテル用と
    手指用)、蒸留水又は滅菌
    精製水。 
    清潔なカット綿やガーゼ、ティ
    ッシュペーパー、ウェットティッシュなど。
    新鮮な水道水、消毒液と水道水
    を入れる容器(各1個ずつ) 
    未滅菌の使い捨て手袋(ゴム
    手袋やビニール手袋など)
    汚染防止用の敷物(タオルやシーツなど)
    ガーグルベースン、使い捨ての
    マスク、エプロン、清潔な布など。


    ◆各物品や薬品等の説明
    ●吸引器
    家庭用吸引器、電気式吸引器、
    ポータブル吸引器などで呼ばれている物です。
    吸引器の種類もいくつかあります。
    手動吸引器、足踏み吸引器、
    コンセント式吸引器、電池式
    吸引器などがあります。

    患者さんの状態に応じた機種を選択します。
    医療機関等での吸引器は殆どが
    中央配管式になっています。
    施設によっては携帯用の吸引器
    を常備しているところもあります。
    機種によって最大吸引圧は異なります。

    ●吸引カテーテル(口腔用)
    コネクター(接続部分)に吸引
    圧調節口がついているカテーテルもあります。
    カテーテルの先端と側面に穴が
    開いているものや、先端だけに
    穴が開いているものなどがあります。

    ●消毒薬
    カテーテルを浸しておく時の消毒液
    より効果を上げるために消毒用
    エタノール液とヒビテン液を混和する場合もあります。

    クロルヘキシジン(一般名)
    商品名:例
    ヒビテン、マスキン など

    両性界面活性剤(一般名)
    商品名:例 
    テゴー51 など

    他にもいろいろあります。
    消毒効果を上げるには適切な濃度も大切になります。

    カテーテルの消毒方法については、製品の素材などにより
    異なる場合もありますので、製品の取扱説明書や担当の看護師や
    薬剤師などにお聞きください。

    カテーテル表面の消毒液
    吸引後にカテーテルの表面だけ
    をアルコール綿で拭いて消毒します。
    清潔なカット綿やガーゼなどに
    浸み込ませてから使用します。
    アルコール綿を作っておくと便利です。
    理想としては、1枚ずつパックされたアルコール綿を使用。

    商品名 例
    消毒用エタノール
    70%イソプロパノール など

    手指用の消毒液
    様々な商品が販売されています。
    希釈して使用するもの、原液の
    まま使用するもの、速乾性の
    あるものなど使用方法もいくつかあります。
    塩化ベンザルコニウムとアルコ
    ールを混和した消毒薬などより
    消毒効果を高くした商品も多く販売されています。

    エタノール(一般名)
    商品名:例
    ピュアラビング
    セーフコール など  

    クロルヘキシジングルコン酸塩(一般名)
    商品名:例
    ヒビテン
    ヒビスクラブ など

    塩化ベンザルコニウム(一般名)
    商品名:例
    ウエルパス
    オスバン など
    *他にもたくさんあります。

    ●蒸留水又は滅菌精製水
    消毒液を薄めるときに使用します。
    水道水で希釈すると影響を受け
    る消毒剤もある為とより効果を維持するためです。

    ●清潔なカット綿やガーゼ等
    清潔なカット綿やガーゼはカテ
    ーテルの表面を拭いたりアルコ
    ール綿等を作る時に必要です。
    ティッシュペーパーやウェット
    ティッシュは何かと便利です。

    ●新鮮な水道水
    口腔内の場合は滅菌水でなくてもいいと思います。
    吸引前後のカテーテルの通水などに使用します。

    ●消毒液と水道水を入れる容器(各1個ずつ)
    消毒薬を入れる容器は、出来れば煮沸消毒したもの。
    吸引カテーテルを浸しておく為
    の容器ですので耐熱性のガラス
    コップや細長いコーヒーカッ
    プやマグカップ、ステンレス製
    の容器など。
    通水用に使用する容器は使い捨
    ての清潔な紙コップやペット
    ボトルなどでもいいと思います。

    ●ゴム手袋など
    使い捨ての清潔なゴム手やプラスチック製の手袋など。
    口腔内の場合は滅菌でなくてもOK

    ●汚染防止用の敷物(清潔なタオルや布など)
    痰や唾液、おう吐物などで汚さないようにします。

    ●ガーグルベースン
    カテーテルの刺激でおう吐した
    場合やうがいなどの時に必要。

    ●使い捨てのマスク
    実施者はなるべくマスクを着用します。
    お互いの感染のリスクを防ぎます。

    ●エプロンなど
    分泌物などの汚染防止と感染防止。

    ●清潔な布
    埃をなどが被らないよう吸引セットを覆う布。



  • 吸引前の準備
    ◆対象者の方の準備
    頭部を枕などで少し拳上する。
    電動式のベッドであれば上体を少し拳上する。
    寝具や衣類などを汚染しない
    ようにタオルやシーツなどを敷く。
    顔を実施者の方に少し向ける。


    ◆実施者の準備
    エプロンとマスクを着用。
    石鹸と流水で手指をよく洗い清潔にする。
    *急いでいる場合は速乾性の消毒液で消毒。
    ゴム手袋などをする(清潔な未滅菌の使い捨ての手袋)


    ◆吸引器の準備
    ①吸引用カテーテルを吸引器に接続する
    吸引器本体に接続されている
    チューブと吸引カテーテルを接続します。
    カテーテルの接続部位だけを
    袋から出して、口腔内に挿入
    する部分は不潔にしないように袋からは出しません。

    ②吸引器の圧を調節する
    *吸引圧参考数値
    ●口と鼻からの吸引圧 
    100mmHg~300mmHg
    口と鼻からの吸引圧は気管内の吸引圧よりも少し高めです。

    ●気管内チューブ及び気管カニューレからの吸引圧
    100mmHg~150mmHg

    単位はkPa(キロパスカル)で
    表示されている文献が 多くなってきています。
    40kPa(キロパスカル)は
    約300mmHg(水銀柱ミリメートル)です。

    吸引カテーテルのサイズや種類などによって圧は多少変化します。



  • 口腔内吸引の実践手順:例
    ここでは成人の場合の吸引方法をまとめてあります。
    一つの例として参考にして頂ければと思います。
    ひとり一人介護の方法は異なり
    ますので、詳細に関しては担当
    医師や看護師などとよくご相談ください。
    医師、看護師などにより手技や
    取り扱う医療機器など異なる場合もあります。
    一つの参考例としてご利用頂ければと思います。

    ◆通 水
    Ⅰ. 吸引カテーテルを袋から全部出す
    ①カテーテルを袋から全部出す
    前もって接続してある吸引カテ
    ーテルの接続部位を把持し、
    カテーテルを袋から全部出します。
    *利き手でない方で把持。
    この時、カテーテルの先がどこにも触れない様に注意します。

    ②カテーテルの部分を把持
    口腔内に挿入するカテーテルの
    部分を清潔な手袋を着用した指で把持します。
    *利き手で把持

    Ⅱ. 吸引器をONする
    ①カテーテルを塞ぐ
    接続部分を把持している方の
    親指等で接続部分の少し手前
    吸引カテーテルの境目あたり
    を折り曲げ塞いでおきます。
    カテーテルに調節口がついて
    いる場合は開放しておきます。

    ②吸引器をONにする
    塞いだ状態で、空いている指でスイッチを入れます。

    Ⅲ. 水道水を吸引(通水)
    ①吸引カテーテルをしっかり把持する(利き手)
    吸引カテーテルの先から1/3~1/4 あたりを把持します。

    ②通水
    塞いだ指を放して水道水を1~2回吸引(通水)します。
    カテーテルに調節口がついて
    いる場合は調節口を親指などで塞ぎます。

    (通水の目的)   
    ・機械が正常に作動するか点検
    ・カテーテルに漏れや破損はないか点検
    ・分泌物等の通りを良くする
    ・分泌物等を付着し難くする等
    消毒液で浸しておいた場合は、
    カテーテル内の消毒液を流す目的もあります。


    ◆口腔内の分泌物などを吸引
    Ⅰ. 圧を止める
    カテーテルの接続部位より少し
    手前を親指などで折って圧を止めておきます。
    カテーテルに調節口がついてい
    る場合は開放しておきます。
    基本的には吸引する時以外は常に圧は止めておきます。
    陰圧をかけたままでカテーテルを
    挿入すると粘膜や舌などにくっ付
    いたり気道内に残っている空気も
    同時に吸引され負担がかかる為です。

    Ⅱ. 吸引カテーテルを挿入
    吸引カテーテルの先から1/3~
    1/4 あたりを把持して挿入します。
    対象者の方に声かけをして、
    口を開いてもらいます。
    カテーテルの先が分泌物以外
    になるべく触れないようにします。
    なるべく不潔にならないように気をつけます。

    Ⅲ. 分泌物を吸引
    分泌物が貯留している部位に
    カテーテルの先端が届いたら、
    カテーテルを開放して吸引します。
    調節口がついている場合は指で塞ぎます。

    最初は喉の奥に貯留している痰
    などを手際良く吸引します。
    カテーテルを指(通常は人差
    し指と親指)で軽く回しながら吸引する。
    続けて2回目の吸引は舌下等に
    溜まった分泌物を吸引。
    その時の状態で違ってきます。
    1回の吸引で済む場合もあれば、
    3~4回の時もあります。
    又気管内に貯留した痰などを早急
    に吸引しなければならない時もあります。

    ※注意
    カテーテルを深く挿入すると
    嘔吐反射(吐きそうになる)
    又は嘔吐を引き起こすことがあります。
    喉の奥を吸引する場合は口蓋垂
    (のどちんこ)や咽頭の粘膜等
    にはなるべく触れないように努めます。
    さらに短時間で1回の吸引をすませます。

    ◆続けて吸引をするとき
    カテーテルの表面は清潔な
    ガーゼ又はアルコール綿などでふき取ります。
    カテーテル内は水道水で通水して洗い流します。
    以降は1回目の手順と同じです。

    アルコール綿で拭きとった後は
    水道水でアルコール分を取り
    除いた方がより安全です。
    アルコール綿で拭き取った後に
    水道水で通水するため希釈は
    されると思いますが、粘膜に
    消毒用のアルコールがつくと
    傷つけるリスクはあります。
    又、アルコールにアレルギー
    のある人は使用しません。

    ◆吸引が終わったら
    ①カテーテルの表面はアルコール綿などで拭き取る
    ②水道水を吸引してカテーテル内を洗い流す
    ③消毒液を吸引
    ④吸引器の電源をOFFにする
    ⑤吸引カテーテルを吸引器につながっているチューブから取り外す
    ⑥消毒液に吸引カテーテルを浸して蓋をしておく
    ⑦清潔な布で覆う



  • 物品等の管理
    ◆カテーテルの保管方法は?(再利用する場合)
    カテーテルの表面と中を水道水
    できれいに洗い流したあとに
    消毒液に指定された時間浸して消毒。
    台所用洗剤で洗浄後、流水できれいに洗い流す。
    痰などの付着物がとれない場合はしばらく水に浸しておく。
    消毒後はよく乾燥させて清潔な容器に保管しておきます。


    ◆カテーテルの交換の時期
    ●理想としては1日1回新しいカテーテルに交換
    コスト面を考慮した場合は、
    消毒・乾燥したカテーテルと交換。
    又は1日1回は台所用洗剤と
    水道水できれいに洗った後に新しい消毒液に浸しておく。

    ●変形や破損、変色などがみられたときに交換


    ◆消毒液の交換
    最低でも1日1回は交換します。


    ◆水道水の交換
    吸引ごとに新しい水道水を使用します。

    製品によって異なる場合もあります。
    又医療機関や看護師などにより
    消毒や保管の方法は異なる場合もあります。



  • 吸引時間、吸引のコツ、注意点など
    ◆1回の吸引時間は?
    口腔内の吸引は殆どが5秒以内で終わると思います。
    1回で取りきれない場合は2回実施して様子をみます。

    気管内を吸引する時には時間が長くなりがちになります。
    出来れば10秒以内、長くても
    15秒までに1回の吸引を済ませます。
    気管切開で気管カニューレ等を
    挿入している方は吸引圧や吸引
    時間、カテーテルの挿入する長さなどには特に注意します。


    ◆吸引時のコツ
    痰などが吸引される音と同時に
    カテーテルを指でゆっくり回し
    ながら、手も少しずつ移動させ引き上げます。
    口腔内の場合は分泌物の位置が
    目で確認しやすいため他の部位
    (鼻腔や気管内など)より吸引
    しやすいですが、喉の奥や咽頭
    に貯留している場合は注意が必要です。


    ◆注意すること
    カテーテルを深く挿入すると
    嘔吐反射(吐きそうになる)
    又は嘔吐を起こすことがある為
    なるべく短時間で1回の吸引をすませます。
    嘔吐などを防ぐ為に口蓋垂
    (のどちんこ)や咽頭の粘膜等
    にはなるべく触れないように努めます。

    ここでは成人の場合の吸引方法をまとめてあります。
    一つの例として参考にしていただければと思います。
    ひとり一人介護の方法は異なり
    ますので、詳細に関しては担当
    医師や看護師などとよくご相談ください。
    医師、看護師などにより手技や
    取り扱う医療機器など 異なる場合もあります。
    一つの参考例としてご利用頂ければと思います。



◇参考文献
書籍
「はじめて人工呼吸器」メディカ出版 2009
「ロールプレイで学ぶ 呼吸ケア・呼吸管理のキーポイント」メディカ出版 2009
「呼吸サポートチームのための 呼吸管理セーフティーBOOK」メディカ出版 2009
「最新医学大辞典」(医歯薬出版株式会社)
「写真でわかる基礎看護技術①」(株式会社インターメディカ) 2008 
「一歩先ゆく呼吸リハビリテーション」メディカ出版 2008
「ナースに必要な診断の知識と技術第4版」(医学書院) 2007

インターネット
厚生労働省HP
2.喀痰の吸引
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/
kaigosyokuin/dl/text_03.pdf