- 静脈栄養法について 項目一覧
静脈栄養法 概要
中心静脈栄養法 概要
中心静脈カテーテルの挿入・留置と合併症
中心静脈栄養法のメリットとデメリット(経腸栄養と比較)
中心静脈栄養法の具体的なケア
末梢静脈栄養法 概要
末梢静脈栄養法の具体的なケア
- 静脈栄養法 概要
◆静脈栄養法とは?
静脈栄養法とは静脈に直接、栄養や水分などを補給する方法です。
静脈を通してエネルギーや栄養、水分などを補給する方法です。
経腸栄養法と異なり消化管を通さず直接、血液内に栄養などを
送り込みます。
◆静脈栄養法の目的
経口摂取が困難又は出来ない時に最初に選択される栄養法になります。
経腸栄養(経鼻胃管、胃瘻などの経管栄養)が困難又は出来
ない時にも実施されます。
◆静脈栄養法の種類
静脈栄養法には中心静脈栄養法と末梢静脈栄養法があります。
中心静脈や末梢静脈から投与します。
中心静脈から投与する方法を中心静脈栄養法、末梢静脈から
投与する方法を末梢静脈栄養法といいます。
末梢静脈栄養法は経口摂取が困難又は出来ない時に最初に選択
される栄養法になります。短期間(目安としては2週間以内)
実施されます。
中心静脈栄養法は経口摂取が長期間、困難又は出来ない時の
選択肢の一つになります。
又、経腸栄養法(経鼻胃管、胃瘻等の経管栄養)が困難又は
出来ない時に実施される栄養法になります。
◆中心静脈栄養法(IVH、高カロリー輸液)
高カロリー輸液(IVH)、完全静脈栄養法(TPN) とも呼ばれます
中心静脈栄養法では、太い静脈を利用して栄養補給をします。
☆中心静脈とは?
心臓(右心房)の近くにある上大静脈と下大静脈 の太い血管を
さします。
上記の位置に留置させることで静脈炎等の合併症を防ぐことが
出来ます。
上大静脈や下大静脈内に留置することにより濃度の高い輸液
(浸透圧の高い輸液) が血管内に注入された場合は速やかに
希釈されて血管壁への刺激を防ぐことが出来ます。
◆末梢静脈栄養法
短期間(目安としては2週間以内)、口から必要なカロリーや
水分などを摂取できない場合に末梢の静脈を通して栄養補給を
する方法です。
◆高カロリー輸液について
栄養補給の目的で使用される輸液を高カロリー輸液といいます。
その為、中心静脈栄養を高カロリー輸液と呼ぶこともあります。
高カロリー輸液とは栄養補給を目的とした輸液で、糖質と
アミノ酸、電解質、ビタミンなどをバランスよく配合した輸液になります。
- 中心静脈栄養法 概要
◆中心静脈栄養法とは?
中心静脈栄養法は中心静脈にカテーテルを留置して、必要な
栄養素やエネルギー、水分、電解質などを補給する方法です。
経腸栄養法と違って消化吸収の過程を通らず、直接血管内に
補給されます。
IVH、高カロリー輸液療法、中心静脈栄養法、完全静脈栄養法
などと呼ばれています。
IVH(Intravenous Hyperalimentation)
TPN(Total Parenteral Nutrition )完全静脈栄養法
消化吸収に問題がある場合や消化管の安静が必要な時等に
実施されます。
中心静脈にカテーテル(中心静脈カテーテル)を留置して、
カテーテルを介して栄養や水分などを補給する方法です。
中心静脈栄養法は経口摂取が長期間困難な方に栄養を補給する
方法の一つです。
1日に必要なカロリーを補給するには、濃度の高い輸液が必要
になる為、血管が太く血液量が多い中心静脈から投与する方法
が選択されます。
◆中心静脈とは?
中心静脈栄養法では太い静脈を利用して栄養補給をします。
通常は心臓(右心房)の近くにある上大静脈と下大静脈の太い
血管をさします。
上大静脈や下大静脈内に留置することにより、濃度の高い輸液
(浸透圧の高い輸液) が血管内に注入された場合は、速やかに
希釈されて血管壁への刺激を防ぐことが出来ます。
血液量が多く太い血管のため濃度の高い薬剤を投与することが
可能です。血管から薬液が漏れるリスクも低いため抗がん剤や
カテコラミン類など確実かつ正確に投与しなければならない
薬剤の場合も中心静脈からの方が安全です。
●上大静脈
頭部、頸部、両上肢、胸部(肺、気管支等)など上半身
から還る血液が集まる血管です。
*心臓の静脈は心臓内にある冠状静脈洞から右心房に入ります。
●下大静脈
両下肢、腹部(肝臓、腎臓、脾臓、生殖器など)の下半身から
還る血液が集まる血管です。
◆中心静脈から補給された栄養分などの血液循環
中心静脈(上下大静脈)→右心房→右心室→肺動脈→
肺(ガス交換)→肺静脈→左心房→左心室→大動脈→
全身の動脈→細動脈→毛細血管(組織液⇔細胞)→
細静脈→全身の静脈→上下大静脈(中心静脈)
上下大静脈(中心静脈)から右心房に入った静脈血は右心室に
移り、肺動脈を通して肺に送り出されます。
肺で酸素と二酸化炭素のガス交換が行われ酸素を多く含んだ
動脈血となります。
酸素と栄養分等を多く含んだ動脈血は左心房に入り左心室から
大動脈を通して全身に送り出されます。
各組織細胞へのガス交換と栄養素や老廃物等の運搬は毛細血管
を通して行われます。
ここで動脈血から静脈血へと変化します。
各組織の細胞に酸素や栄養素などが運ばれた後は、老廃物や
二酸化炭素、還元ヘモグロビンを多く含んだ静脈血となり、
細静脈から徐々に太い静脈へと流れて上下大静脈(中心静脈)
に集まり右心房に還ります。
◆メモ◇~~~~~
中心静脈栄養法を意味する英語
TPN (Total Parenteral Nutrition )完全静脈栄養法といいます。
病院などでよく言われている中心静脈は正確にはCV
Central Vein です。
中心静脈に対して普通の静脈注射や点滴などに利用される血管
は末梢静脈になります。
体循環と肺循環
心臓から送り出される血管を動脈、心臓に還る血管を静脈
といいます。
血管内を流れている血液は体循環と肺循環では異なります。
体循環(大循環:左心室から全身へ)の場合の動脈には動脈血が
静脈には静脈血が流れています。
肺循環(小循環:右心室から肺へ)の場合の肺動脈には静脈血が
肺静脈には動脈血が流れています。
肺胞でのガス交換について(外呼吸・肺呼吸)
動脈血は酸化ヘモグロビンが多く、酸素を多く含んでいます
静脈血は還元ヘモグロビンが多く、二酸化炭素を多く含んでいます。
肺で血液中の赤血球(ヘモグロビン)と肺胞内の酸素が結び
ついて酸化ヘモグロビンになり、全身の各組織に運ばれます。
全身の毛細血管でのガス交換により、酸素が離れて還元ヘモ
グロビンになります。
末梢組織でのガス交換(内呼吸・組織呼吸)
血液中に溶け込んだ成分は組織液内に移動した後、細胞内に
取り込まれます。
毛細血管の細胞の隙間を通してガス交換(酸素と二酸化炭素の
やりとり)や栄養素や老廃物などの運搬が行われています。
細胞が排出した二酸化炭素や老廃物などの一部は毛細血管に
入って静脈血内に取り込まれ心臓に還ってきます。
門脈と肝動脈
肝臓は他の臓器と異なり二つの血管(門脈と肝動脈)から
血液を供給されています。門脈は消化管と脾臓から集まった
血液が流れ、肝動脈は心臓から送り出された血液が流れています。
門脈には腸から吸収された栄養素を多く含んだ静脈血が流れています。
門脈と肝動脈を流れる血液は肝臓内の毛細血管を経て肝静脈に
集まり、下大静脈を通って右心房に入ります。
◇◆◇◆~~~~~
- 中心静脈カテーテルの挿入・留置と合併症
◆挿入(穿刺)部位
挿入(穿刺)部位は鎖骨下、頸部、鼠径部(太腿の付け根)
上肢などいくつかの経路がありますが、栄養補給の目的で
挿入する場合は比較的多いのが、鎖骨下や頸部になります。
栄養補給が長期間続く場合は、鎖骨下の方が適しています。
他の部位に比べ、感染や血栓のリスクが低く、固定がしやいためです。
その為、状態が安定している在宅や施設で療養されている方の
場合は、鎖骨下からの挿入が多いと思います。
左右どちらからでも挿入は可能ですが施術者が右利きの場合は
右側からの穿刺のほうがやりやすいようです。
穿刺時のリスクの面から考えると、頸部からの挿入の方が鎖骨下
よりは安全で容易とされています。
手術や急性期、状態が不安定な場合は頸部からの挿入が多いようです。
最近では肘静脈などの末梢から挿入するケースも多くなってきて
いるようです。この場合はカテーテル挿入時の合併症がほとんど
発生しないようです。
◆中心静脈カテーテル留置及び輸液ルートによる主な合併症
●血栓症、塞栓症
血液がルート内に逆流すると血栓が生じやすくなります。
●菌血症、敗血症
感染経路には中心静脈カテーテル、輸液チューブ、フィルター
三方活栓などからの側注、輸液剤などがあります。
●カテーテルの事故抜去(自己抜去も含む)による出血や離断
カテーテルが千切れたりした場合は、先端が心臓内等に残って
いる場合もある為、注意が必要です。
カテーテル挿入(穿刺)時の主な合併症には気胸や空気塞栓、
動脈損傷などがあります。
◆メモ◇~~~~~
血栓と塞栓について
血栓は血の塊り。
塞栓は血栓等の塊が血管を塞ぎ血液の流れが遮断されること
塞栓を引き起こす塊りには血栓、脂肪組織、空気、腫瘍など
があります。
菌血症と敗血症の違い
菌血症とは菌が血液中に存在して全身を循環している状態。
血液中で菌が増殖し症状を伴った場合は、敗血症。
中心静脈にカテーテルを留置する目的
中心静脈にカテーテルを留置する目的は、栄養補給以外にも
確実な血管確保、治療(薬剤の投与)、検査(静脈圧の測定)
などの目的でも挿入されます。
中心静脈カテーテルの主な挿入部位
中心静脈カテーテルの主な挿入部位は、鎖骨の場合は鎖骨下
静脈、頸部の場合は内頸静脈、外頸静脈、上肢の場合は
上腕尺側皮静脈、下肢(そけい部)の場合は大腿静脈など。
中心静脈カテーテルの留置部位
鼠径部から挿入した場合は下大静脈に、鎖骨下や頸部、上肢
から挿入した場合は上大静脈に留置。
中心静脈栄養法を意味する英語
TPN (Total Parenteral Nutrition )
完全静脈栄養法といいます。
◇◆◇◆~~~~~
- 中心静脈栄養法のメリットとデメリット(経腸栄養と比較)
◆中心静脈栄養法のメリット(経腸栄養法との比較)
経鼻栄養法や胃瘻栄養法等の経腸栄養法と比較した場合のメリット
を大まかに挙げています。
●確実な栄養補給が可能
必要なエネルギーや栄養素などを正確に確実に投与できます
経腸栄養の場合は下痢や嘔吐等のリスクがありますが、中心
静脈栄養では必要なカロリーや栄養素などを確実に補給できます。
●緊急時の対応が可能
緊急時の薬剤投与が速やかに確実に出来ます。
緊急時の血管確保としても利用できます。
薬液を確実に投与できます。
他にも中心静脈圧などの測定などあります。
●消化管の安静保持が出来る
消化器管への負担が軽減できます。
消化器系に問題があったり安静が必要な場合は経腸栄養法は
困難又は出来ません。
●管による消化管などへの刺激や違和感、負担がない
●栄養補給時に伴う下痢や腹痛、不快感などの腹部症状がない
◆中心静脈栄養法のデメリット(経腸栄養法との比較)
経鼻栄養法や胃瘻栄養法などの経腸栄養法と比較した場合のデメリ
ットを大まかに挙げています。
●感染を起こし易い
中心静脈のルートを介しての感染のリスクが高くなります。
経腸栄養と違い、太い血管内に直接カテーテルが挿入されて
いるため感染を引き起こすリスクが高くなります。
●血栓が生じやすい
血栓症のリスクがあります。
血液の逆流等がある場合は血栓を形成しやすくなります。
●代謝による合併症のリスクが高い
血糖のコントロールが難しい、肝機能障害のリスクがある、
ビタミン類などが欠乏しやすいなど。
●自然な消化吸収の機能が低下し易い
消化管の自然な働きが妨げられます。
長期間消化管が正常に機能していないと、腸粘膜の萎縮等で
腸内環境の変化がおこり様々な弊害をもたらすリスクが高くなります。
●事故抜去しやすい
胃瘻と比較した場合は体外に出ている管が長い為、抜ける
リスクが高くなります。
●中心静脈を挿入する時のリスクが高い
経鼻胃管と比較すると合併症のリスクが高い。
例えば、気胸や空気塞栓、動脈損傷などがあります。
●管理が煩雑
●行動が制限される
経腸栄養法では投与時間以外は特に行動は制限されません。
中心静脈栄養法の場合は通常は24時間の投与のため経腸栄養
よりも不自由になります。
中心静脈栄養法(高カロリー輸液)は病態等の面からだけでなく
本人や家族の希望、経済的な面からも考慮される場合もあります
例えば本人が経鼻胃管や胃瘻をどうしても挿入したくない場合は
静脈栄養の方法をとることもあります。
最終的な判断は医師に委ねられますが、消化管が正常に機能して
いる様であれば、経腸栄養法を選択するほうが体にはより自然な
機能が保たれることになります。
◆メモ◇~~~~~
長期絶食による消化器官への主な弊害
消化管粘膜の萎縮、胆汁、膵液などの減少で全身状態を悪化
させるリスクが高くなります。
胆汁の鬱滞で胆石症や胆のう炎等のリスクが高くなります。
長期絶食時の腸内の変化
長期間消化器系が正常に機能していないと腸粘膜の萎縮が起きます。
粘液の分泌量が減少し腸の動きも悪くなり、腸管内の環境も変わります
異常な細菌が増殖しやすくなり、腸粘膜から吸収され全身
状態を悪化させるリスクが高くなります。
胆汁鬱滞(うったい)について
食べ物が胃の中に入ることにより胆嚢が収縮し胆汁が十二指
腸内に押し出されます。
絶食状態が続くと胆嚢の収縮が行われ難くなり、胆汁が胆嚢内
に留まりやすくなります。
胆汁の停滞が長期間続くと胆石が出来やすくなったり炎症を
引き起こしやすくなります。
◇◆◇◆~~~~~
- 中心静脈栄養法の具体的なケア
◆介護職員の場合
高カロリー輸液を受けている方の介護職員が注意することなど。
●中心静脈ラインの固定の確認
在宅でも医療機関や施設でも、まず最初に観察することは、
中心静脈カテーテルが抜けていないかどうか、接続部位が
しっかり接続されているかどうか確認することが大切になります。
カテーテル挿入部位は抜けないようにナイロン糸等で縫合して固定
されていますが、ずれる場合もあります。
●輸液の滴下速度の確認
指示された速度で滴下しているか確認します。
滴下速度が遅い又は滴下していない様であればチューブ自体の
閉塞(圧迫や曲折など)又は血液がルート内で凝固している
可能性もあります。
又カテーテルの位置異常の可能性もあります。
●中心静脈カテーテル挿入部位の観察
挿入部位の発赤やもれ、カテーテルのずれなどがないか確認します。
挿入部位の保護は通常は滅菌ガーゼや透明なドレッシンング
(保護シート、フィルムなど)で保護されています。
透明なものは観察が容易ですが、ガーゼの場合でも漏れが
ある場合は確認できます。
●バイタルサイン
特に発熱の有無に注意します。
中心静脈カテーテルを挿入している場合は、ルートを介して
感染のリスクが高まるため体温のチェックは欠かせません。
その他、呼吸、脈拍の状態も観察します。
カテーテルの位置がずれている場合は先端が心臓に入っている
可能性もあります。
心臓に入ると不整脈を引き起こすことがある為、動悸などの
自覚症状の観察も重要になります。
反対に中心静脈(上下大静脈)より浅い部位に先端がある場合
は輸液が血管外へ漏出する場合もあります。
カテーテルの刺激や血栓が原因で静脈炎を併発する場合もあります。
静脈炎を併発している場合も輸液が胸腔内や縦隔内等に漏出し
呼吸困難を引き起こすリスクがあります。
呼吸状態や頸部や胸部、上肢の発赤や腫れ、痛み等の観察も
重要になります。
●血糖症状
高カロリー輸液の場合は血糖のコントロールが難しい場合も
ある為、高血糖症状や低血糖症状には注意します。
高血糖の主な症状としては喉の渇き、空腹感、多尿、皮膚の
痒み、傷が治りにくい、眠気などがあります。
進行すると意識障害を起こすこともあります。
低血糖の主な症状には、空腹感、悪心、生欠伸、発汗、
手足の震え、倦怠感、動機、不安 などがあります。
進行すると異常行動やさらに意識障害を起こすこともあります。
●介護職員が実施できる対策
介護職員の場合は下記のような異常を確認した場合は担当の
看護師などにまず報告することになります。
チューブの接続部位が緩んでいたり、カテーテルの位置が
ずれている場合、輸液の落下が遅い又は滴下していない、
ルート内に血液が逆流している、挿入部位の発赤、バイタル
サインの異常、自覚症状の訴え(気分不快、動機、呼吸苦、
痛みなど)頸部や胸部、上肢の発赤や腫れ、顔色不良、発汗
手指の震えなど異変があれば速やかに担当看護師に報告します。
異常の早期発見と報告が大切になります。
◆看護職員の直接的なケア
医療機関や施設では中心静脈栄養を受けている方の直接的なケアは
主に看護職員が実施しています。
家庭などで療養している方に対しては主に訪問看護師がケアしています
●高カロリー輸液の管理
滴下の確認、調節
輸液量の確認
輸液の交換
●中心静脈ラインの管理
接続部位のチェック
ルートの固定の確認
血液の逆流の有無
ルート交換
●カテーテル挿入部位の観察と処置
消毒とガーゼなどの交換、固定
出血などの汚染の有無
カテーテルの位置異常の有無
●症状の観察
自覚症状の有無
疼痛、熱感など
他覚症状の有無
発赤、腫れなど
●バイタルサインのチェック
特に体温と呼吸状態には注意します。
異常があれば担当医師に報告します。
在宅では訪問看護師以外に、ご家族、介護職員の方等がケアに
あたっているところが多いと思います。
直接的な医療行為は出来なくても症状の観察や体温、呼吸、脈拍
血圧の測定、輸液量や滴下の状態、ルートの観察などは可能な為
異常を発見したらすぐに看護師などに知らせることが大切になります。
- 末梢静脈栄養法 概要
◆末梢静脈栄養法とは?
短期間(目安としては2週間以内)、口から必要なカロリーや
水分等が十分摂取できない場合に末梢の静脈を通して栄養補給
などをする方法です。
末梢静脈栄養法を意味する英語は
PPN (Peripheral Parenteral Nutrition )です。
◆末梢静脈とは?
末梢静脈とは心臓から遠いところを走っている血管で主に上肢
や下肢の静脈をさしています。
血管確保でよく選択されるのが上肢の末梢静脈になります。
上肢での血管確保が困難な場合は下肢の血管を選択します。
心臓に還ってくる血管を静脈といいます。
毛細血管から細静脈となって徐々に太くなっていきます。
心臓に近くなるほど血管は太くなります。
心臓に最も近い静脈には上大静脈と下大静脈があり、中心静脈と
呼ばれています。
◆末梢静脈カテーテルの穿刺(挿入)部位
栄養や水分補給の目的で穿刺する場合は一時的な穿刺(採血や
通常の点滴等)と異なり静脈カテーテルを挿入して留置しておきます。
留置することによりその都度穿刺する必要がなく患者さんへの
負担も軽くなります。
穿刺部位は固定しやすく体動時に、より邪魔にならない部位が
選択されます。
最初に選択される血管は前腕の血管になります。
肘正中皮静脈、橈側皮静脈、尺側皮静脈、前腕正中皮静脈などがあります。
上記が困難は場合は手背の静脈を選択する場合もあります。
上肢が困難な場合は足背の静脈が選択されるケースもあります。
◆主なメリット(中心静脈栄養法との比較)
●末梢からの血管確保の方が容易で穿刺時のリスクが低い
中心静脈の確保は医師でなければ実施できませんが、末梢静脈
の場合は熟練した看護師なら(医師の指示の下)実施できます。
穿刺時のリスクもより低くなります。
●患者さんへの負担がより小さい
末梢静脈からの方が身体的にも心理的にも負担は小さくなります。
中心静脈からの場合は心臓に近く、合併症に対する不安もより
大きく感じると思います。
◆主なデメリット(中心静脈栄養法との比較)
●中心静脈に比べて血管が細く流れる血液量も少ない
血管が細いと濃度の高い輸液を投与するにはリスクが高くなります。
静脈炎や血管痛の原因になります。
静脈炎になると血栓が生じやすくなる為、静脈の閉塞の危険
が高くなります。
血管が細い、脆い、挿入や固定が不十分だった場合は血管外
に漏れる危険もあります。
抗がん剤や血管収縮剤、強いアルカリ性薬剤などが血管外へ漏れた
場合は硬結や潰瘍、壊死を起こす危険があります。
●末梢の静脈からは充分な栄養補給が出来ない
1日に必要な栄養を補給するためには末梢の静脈からは限界があります
静脈からの栄養補給が2週間以上続く場合は中心静脈に切り替えた方が安全。
◆末梢静脈栄養法で使用される輸液について
末梢静脈から1日に必要なカロリーを補給するには限界があります。
1日1000Cal~1200Calが限度とされています。
それ以上のカロリーを投与するには濃度を高くするか投与量を
多くする必要があります。
濃度を高くすると静脈炎や血管痛などがあれわれます。
投与量を多くすると腎臓や心臓などに負担をかけることになりす。
末梢静脈栄養法は十分な栄養補給が困難なため長期間(目安と
しては2週間以内)は実施できません。
各栄養素の濃度には限界があり、ブドウ糖液(糖質)は
10%~12%が限度とされています。
アミノ酸製剤(タンパク質)は10~12%とされています。
脂肪乳剤(脂質)の場合は浸透圧は血漿とほぼ同じです。
●末梢静脈栄養法に用いられる主な輸液の種類
静脈栄養として用いられる輸液は維持液とも呼ばれ一時的な
輸液よりカロリーの高い輸液が選択されます。
●主な輸液の商品名例
維持液
ソリタ-T3号G輸液、ソリタックスH輸液、フィジオゾール
3号輸液、フィジオ35輸液、10%EL-3号輸液、EL-3号
輸液、ソルデム3AG輸液、KNMG3号輸液 など
アミノ酸・電解質・糖
アミノフリード輸液、ツインパル輸液 など
アミノ酸・電解質・糖・ビタミン
ビーフリード輸液 など
他にもあります。
病態などにより投与される輸液や追加される薬液は異なります。
◆末梢静脈カテーテル留置に伴う主な合併症
●静脈炎
血管痛、熱感、発赤、腫脹などの症状があらわれます。
●感染
挿入部位、輸液ラインなどからの感染のリスクがあります。
●血栓
血液が逆流した場合や静脈炎を併発した場合は血栓が生じ易く
なります。
●空気塞栓
カテーテル挿入時や側注などの時に空気が血管内に入るリスク
があります。
●輸液漏れ
固定がしっかりされていない、体動が激しい、血管が細い、
脆いなどの理由で輸液が血管外へもれる場合もあります。
◆メモ◇~~~~~
静脈炎の原因について
静脈炎の主な原因には感染、静脈カテーテル自体の材質や刺激
輸液の浸透圧などがあります。
ルートの維持について
輸液のたびに穿刺することを避ける為には、ルート内を詰まら
せないようにする必要があります。
そのための方法として生食ロック、ヘパロック、持続点滴があります。
生食ロック、ヘパロックは必要な輸液が投与された後は輸液
セットを外してロックしておきます。
血液が逆流して血液が凝固しない様にする為に静脈カテーテル
内に生理食塩水を充填(生食ロック)します。
以前はヘパリン生食を使用するヘパロックが主流でしたが最近では
徐々に生食ロックが増えてきているようです。
24時間持続的に補給(持続点滴)してルートを維持する場合は
患者さんへの負担は大きくなります。
濃度の高い輸液を投与する理由は?
一日に必要なカロリーを補給するには輸液が多量に必要になります。
一度に多量の輸液は投与できないため濃度を高くして適切な量
に調節する必要があります。
末梢静脈栄養法に用いられる輸液の浸透圧について
輸液による静脈炎を予防する為には、900mOsm/kg(浸透
圧比約 3)未満に抑えることが大切になります。
アミノ酸製剤やブドウ糖液を投与する場合は浸透圧が上記を
超えないように注意する必要があります。
脂肪乳剤の浸透圧は血漿とほぼ同じです。
浸透圧比は生理食塩水に対する比
血漿の浸透圧は280~300mOsm(ミリオスモル)/L (mOsm/kg)
生理食塩水とほぼ同じ
pHも注意が必要
◇◆◇◆~~~~~
- 末梢静脈栄養法の具体的なケア
◆介護職員の場合など
●介護職員が注意することなど
末梢静脈栄養法を受けている方は医療機関で入院治療されて
いる場合が多いと思います。介護職員は直接的なケア(医療
行為等)は出来ませんが異常の早期発見のための観察は必要
になります。
●観察と対処
以下のような状態や症状等を確認した場合はすぐに担当看護師
などに報告します。
輸液の滴下と輸液ラインの状態
輸液が早い、遅い、滴下していない、輸液ラインの閉塞、
チューブが外れている、静脈カテーテルが抜けかけている
輸液の漏れ(挿入部位からの漏れ、血管外への漏れなど)
血液の逆流、ルート内に空気が混入、輸液の混濁や浮遊物の存在など
静脈炎の徴候
静脈カテーテル留置部位の血管に沿うような発赤(赤い索条)
挿入部位の発赤(紅斑)、疼痛(圧痛)、熱感、腫脹、硬結 など
一般状態
顔色不良、息苦しさ、胸苦しさ、全身倦怠感 など
その他
挿入部位からの浸出液、バイタルサインの異常 など
◆看護職員の主な直接的ケア(医療行為など)
看護職員の医療行為は全て医師の指示のもとに実施されます。
●末梢静脈ラインの確保
末梢静脈の選択、末梢静脈カテーテルの挿入、固定 など
●輸液と輸液ルートの管理
輸液の確認(指示通りか)、輸液量の調節、輸液交換、ルート
の維持(生食ロックなど)、側注、水分出納の管理 など
●合併症に対する対処
・静脈炎の徴候を確認したらカテーテルを抜去
・静脈カテーテルの入れ替えとルート交換
静脈カテーテルの交換は通常は72時間~96時間。
ルート(輸液セット)の交換は何もなければ静脈カテーテルを交換
する時に一緒に交換(通常は72時間以上)。
血液や脂肪乳剤等を投与した場合は使用したチューブは24時間以内に交換。
◆メモ◇~~~~~
静脈カテーテルの留置期間
血管確保が難しい場合は静脈炎などの徴候がなければ7日間は留置可能
小児の場合は、合併症の徴候がなければ定期的な交換はしなくても良い
◇◆◇◆~~~~~
◇参考文献
書籍
「わかりやすい病態生理」小学館
「最新医学大辞典」医歯薬出版株式会社
「医学大辞典」
「家庭医学大百科」
「広辞苑」
「人体生理学ノート」金芳堂 循環p79 呼吸p71 p74 p88 p94 p95
「ナース必携最新基本手技AtoZ」保存版 p107 p172 p173 p132~p135 発行・照林社 発売・小学館
「全科術前・術後マニュアル」 p72 発行・照林社 発売・小学館
インターネット〉
「フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)」
http://ja.wikipedia.org/wiki/高カロリー輸液
ja.wikipedia.org/wiki/上大静脈
ja.wikipedia.org/wiki/下大静脈
ja.wikipedia.org/wiki/大静脈
ja.wikipedia.org/wiki/毛細血管
ja.wikipedia.org/wiki/門脈
//ja.wikipedia.org/wiki/菌血症
//ja.wikipedia.org/wiki/血栓
//ja.wikipedia.org/wiki/塞栓
//ja.wikipedia.org/wiki/滲出
//ja.wikipedia.org/wiki/高血糖症
//ja.wikipedia.org/wiki/血糖値
ja.wikipedia.org/wiki/静脈注射
ja.wikipedia.org/wiki/輸液
厚生労働省HP内
高カロリー輸液の投与経路に関する注意について
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001230456.pdf
入院(その4)
p46~
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001169811.pdf
経静脈栄養法(ニュートリーHP内)
//www.nutri.co.jp/dic/ch7-2/
輸液製剤協議会HP内
https://www.yueki.com/